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4.王国の失態(モブ視点)
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「逃げられた、ですって?」
「え、ええ……」
兵士からの報告を聞いたパルティアは、激怒していた。
彼女の策略によって捕まっていた元聖女のエルトナは、煙のように消えて、そのまま消息がわからなくなっていた。ベルガナ王国の王城は、まんまと囚人に逃げられたのだ。
「天下の王城の兵士達が、小娘一人捕まえられないとは何事ですか!」
「お、お言葉ですが、パルティア様、相手は元聖女……ただの小娘ではありません」
「それでも、たった一人にまんまと逃げられるなんて、王国の名折れではありませんか!」
パルティアの言葉に、兵士達を束ねる兵士長は怯んでいた。
もちろん、彼にとっても今回の件は恥ずべきことである。故に本来なら、その叱責は受け入れるつもりであった。
しかし、兵士長は知っていた。エルトナがパルティアの策略によって捕まっていたということを。故に彼は、素直に王女の言葉を聞き入れられないのだ。
「パルティア、やめろ」
「……お兄様?」
「そもそもの話、今回の件はお前の失敗だ。聖女エルトナを嵌めたことをこの兄が知らないとでも思っているのか?」
そんな兵士長の心を代弁したのは、王国の第二王子であるバルードであった。
彼は、鋭い視線をパルティアに向けている。彼の気持ちも、兵士長と同じなのだ。
「お兄様、あの女は平民ですよ! そんな女が、この王城で威張り散らすことが、許されると思っているのですか?」
「聖女エルトナが威張り散らした記憶などは、俺にはない。お前の勝手な事情によって、この国は大きな力を失ったのだぞ? お前はそれを理解しろ」
バルードは、パルティアの作り出した罪の真相を暴き、エルトナのことを助け出すつもりであった。
彼からしてみれば、エルトナはベルガナ王国の貴重な人材であったのだ。
パルティアの妨害などもあり、それは中々進まなかった。その結果として、今回の事件が起こってしまったのである。
「ですが、彼女はどの道罪人です。脱獄した以上、国際指名手配は免れません」
「残念だが、そうはならない。彼女は既に亡くなっているからだ」
「え?」
バルードの言葉に、パルティアは驚いていた。
しかし彼女は、すぐに笑みを浮かべる。エルトナが亡くなった。それは彼女にとって、喜ばしいことだったのだ。
「ははっ! 野垂れ死にましたか? いい気味ですね」
「そういうことではない。彼女は、公的には死んだと言っているのだ」
「え?」
「この王城から、囚人が抜け出したなどということを公表できる訳もない。彼女の名誉を守ることができないことは残念ではあるが、エルトナは既に処刑されたということにする」
「なっ……!」
バルードの結論は、パルティアにとっては受け入れられるものではなかった。
彼女の望みは、つけあがったエルトナの死である。例え公的には死んでいたとしても、腹の虫が収まらないのだ。
だが彼女も、王国の権威が揺るぐことで不利益を受ける立場である。故にパルティアは、バルードの結論を覆すことはできないのであった。
「え、ええ……」
兵士からの報告を聞いたパルティアは、激怒していた。
彼女の策略によって捕まっていた元聖女のエルトナは、煙のように消えて、そのまま消息がわからなくなっていた。ベルガナ王国の王城は、まんまと囚人に逃げられたのだ。
「天下の王城の兵士達が、小娘一人捕まえられないとは何事ですか!」
「お、お言葉ですが、パルティア様、相手は元聖女……ただの小娘ではありません」
「それでも、たった一人にまんまと逃げられるなんて、王国の名折れではありませんか!」
パルティアの言葉に、兵士達を束ねる兵士長は怯んでいた。
もちろん、彼にとっても今回の件は恥ずべきことである。故に本来なら、その叱責は受け入れるつもりであった。
しかし、兵士長は知っていた。エルトナがパルティアの策略によって捕まっていたということを。故に彼は、素直に王女の言葉を聞き入れられないのだ。
「パルティア、やめろ」
「……お兄様?」
「そもそもの話、今回の件はお前の失敗だ。聖女エルトナを嵌めたことをこの兄が知らないとでも思っているのか?」
そんな兵士長の心を代弁したのは、王国の第二王子であるバルードであった。
彼は、鋭い視線をパルティアに向けている。彼の気持ちも、兵士長と同じなのだ。
「お兄様、あの女は平民ですよ! そんな女が、この王城で威張り散らすことが、許されると思っているのですか?」
「聖女エルトナが威張り散らした記憶などは、俺にはない。お前の勝手な事情によって、この国は大きな力を失ったのだぞ? お前はそれを理解しろ」
バルードは、パルティアの作り出した罪の真相を暴き、エルトナのことを助け出すつもりであった。
彼からしてみれば、エルトナはベルガナ王国の貴重な人材であったのだ。
パルティアの妨害などもあり、それは中々進まなかった。その結果として、今回の事件が起こってしまったのである。
「ですが、彼女はどの道罪人です。脱獄した以上、国際指名手配は免れません」
「残念だが、そうはならない。彼女は既に亡くなっているからだ」
「え?」
バルードの言葉に、パルティアは驚いていた。
しかし彼女は、すぐに笑みを浮かべる。エルトナが亡くなった。それは彼女にとって、喜ばしいことだったのだ。
「ははっ! 野垂れ死にましたか? いい気味ですね」
「そういうことではない。彼女は、公的には死んだと言っているのだ」
「え?」
「この王城から、囚人が抜け出したなどということを公表できる訳もない。彼女の名誉を守ることができないことは残念ではあるが、エルトナは既に処刑されたということにする」
「なっ……!」
バルードの結論は、パルティアにとっては受け入れられるものではなかった。
彼女の望みは、つけあがったエルトナの死である。例え公的には死んでいたとしても、腹の虫が収まらないのだ。
だが彼女も、王国の権威が揺るぐことで不利益を受ける立場である。故にパルティアは、バルードの結論を覆すことはできないのであった。
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