上 下
21 / 24

選択① 立派な当主に

しおりを挟む
 私は、イルルドの元に来ていた。
 彼に、私の結論を伝えに来たのだ。

「姉上、どうかしましたか?」
「……あなたを、私の婚約者に選んだことを伝えに来たの」
「……そうですか」

 私の言葉に、イルルドは驚いた。
 しかし、すぐにその表情は戻る。こういう時にすぐに冷静になれるのは、彼のすごい所だ。

「やっぱり、あなた以上に当主に相応しい人はいないわ。もちろん、二人でもこの家をいい方向に導いてくれるとは思うけど、あなたを差し置いてまで選択するべきでないと思ったの」
「姉上にそう言っていただけて光栄です。ならば、その期待を裏切らないようにしなければなりませんね」
「あなたなら大丈夫。頼りにしているわ、イルルド」
「ええ、任せてください」

 イルルドなら、絶対に大丈夫。私は、そう思っていた。
 彼は、貴族の鑑だ。そんな彼は、このメルスード家を真っ直ぐに導いてくれるだろう。

「……姉上、もう一つ約束させてください」
「え? 何かしら?」
「私は、姉上のことも必ず幸せにします。それが、選ばれた私の責任だと思っています」
「え? あ、ええ……えっと、よろしく頼むわ」

 イルルドは、私の前で跪いてきた。
 そして、私の手を取り、そっと口づけをする。
 なんだか、少し恥ずかしい。弟にこんなことをされるなんて、少し前までは考えられなかったことだ。
 だが、案外悪い気分ではなかった。私は基本的に弟のことが大好きである。だから、彼の言葉を嬉しく思っているのだろう。

 私は、イルルドの妻になる。
 この選択は、きっと間違っていないだろう。
 誠実で真面目な彼は、メルスード家も私のこともしっかりと導いてくれるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏令嬢の私は婚約破棄されたので、優雅な生活を送りたいと思います。

coco
恋愛
「お前みたいな貧乏人は、もういらない!」 私との婚約を破棄し、金持ちの女に走った婚約者。 貧乏だなんて、いつ私が言いました? あなたに婚約破棄されたので、私は優雅な生活を送りたいと思います─。

彼の為に身を引けとお姉様に言われたから守ったのに、どうしてお二人揃って破滅してるの?

coco
恋愛
「あなたは彼を不幸にする、彼の為にも身を引きなさい!」 聖女のお姉様に言われた通りに、婚約者と別れた私。 その後、姉と彼は婚約する事に。 あれ…でもどうしてお二人揃って破滅してるの─?

【完結】潔く私を忘れてください旦那様

なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった        君を選んだ事が間違いだ」 子を産めない お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない 私を「愛している」と言った口で 別れを告げた 私を抱きしめた両手で 突き放した彼を忘れるはずがない…… 1年の月日が経ち ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客 私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは 謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。 「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」 そんな事を言われて……私は思う 貴方に返す返事はただ一つだと。

義妹に夢中になった王子に捨てられたので、私はこの宝を持ってお城から去る事にします。

coco
恋愛
私より義妹に夢中になった王子。 私とあなたは、昔から結ばれる事が決まっていた仲だったのに…。 私は宝を持って、城を去る事にした─。

「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。 「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。 関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。 「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。 「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。 とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

彼には溺愛する幼馴染が居ますが…どうして彼女までこの家に住む事になっているのです?

coco
恋愛
彼には溺愛する美しい幼馴染が居る。 でもどうして、彼女までこの家に住む事になっているのです? ここは本来、私たちが幸せに暮らすはずの家だったのに…。

婚約者が真後ろの席で女と密会中、私はそろそろ我慢の限界なのですが。

coco
恋愛
後ろの席に座る、男と女。 聞き慣れたその声は、私の婚約者だった。 女と密会した上、私の悪口まで言い放つ彼。 …もう黙ってられない。 私は席を立ちあがり、振り返った─。

処理中です...