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第19話 どのような選択でも

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 私は、自室に戻るために廊下を歩いていた。
 当主を誰にするか、誰に妻になるか。また悩んでしまっている。
 このままでは、思考がまとまらない。部屋に戻っても、それは変わらないだろう。

「それなら……」

 という訳で、私は行き先を変更することにした。
 こういう時には、体を動かすべきだ。運動して、すっきりして、改めて思考する方が、今はいいはずである。
 こういう時に便利なのは、修練部屋だ。剣術などの武芸を習う場所なので、好きなだけ体を動かすことができる。

「丁度、近いしね……」

 この考えに至ったのは、丁度修練部屋の前にいたからだ。
 今から、ゆっくりと朝を流すことにしよう。

「あら?」

 そう思いながら、修練部屋に入ろうとした私の耳に音が聞こえてきた。
 それは、剣を振るう音である。誰か、先客がいるようだ。

「あ、イルルド?」
「む……姉上?」

 剣を振るっていたのは、イルルドだった。
 よく考えてみると、彼は兄弟の中でも一番ここを利用する人間である。この時間にここにいても、おかしくはない。それを思いつかなかった私は、鈍感だったといえるだろう。
 兄弟との婚約を忘れるためにここに来たのに、イルルドと会っては何も意味がない。だが、出て行くのもおかしいので、とりあえず彼と話すしかないだろう。

「今日も鍛錬?」
「ええ、姉上もですか?」
「えっと……少し、体を動かしたくて」
「……なるほど、私達のことで悩んでいるという所ですか」
「え? よくわかったわね……」

 イルルドは、私の心を見抜いてきた。
 もしかして、表情に出ていたのだろうか。私は、案外わかりやすい人間なのかもしれない。

「結論は出ませんか?」
「ええ、出ていないわ」
「……どのような結論でも、私達は姉上の選択を尊重します。誰が選ばれてもいい。私は、そう思っています」
「イルルド……」

 イルルドは、私の目を真っ直ぐに見てきた。
 その言葉は、とても心強いものである。
 こういう風に、芯の通っている彼は本当に頼もしい。改めて、私は彼の素質を理解する。本当に、彼は当主に相応しい人間だ。

 しかし、彼に他の二人が劣っているかというとそうではない。
 ウルーグもエルディンも、充分当主としての素質を持っているだろう。

 そもそも、当主の素質とはなんなのだろうか。私は、改めてそれを考える。
 結局、それは各々の感覚なのかもしれない。三人の誰が当主に相応しいかなんて、考え方によって異なってくるだろう。

 だから、私も自分の考えで、当主を決めるべきなのかもしれない。
 当主として相応しいか、夫としてどうか、それら全てを総合して考えてみることにしよう。
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