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第18話 中庭の風景

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 私は、自室に戻るために廊下を歩いていた。
 ウルーグの優しい一面を見たため、私の考えは揺らいでしまった。改めて整理するために、一度部屋に戻ることにしたのだ。

「あら?」

 その道中、私はある人を見つけた。
 それは、庭師であるゼルックさんだ。中庭で、彼は何やら頷いている。その顔は、とても嬉しそうだ。
 何か、いいことでもあったのだろうか。少し声をかけて、聞いてみることにしよう。

「ゼルックさん、おはようございます」
「おや、お嬢様、おはようございます」
「どうかしたんですか? なんだか、嬉しそうですけど?」
「この中庭の花々に感心していたのです」
「感心……?」

 ゼルックさんの言葉に、私は疑問を覚えていた。
 この中庭は、彼が整備しているはずだ。
 自分で整備していて、自分で感心する。そういうことも、もちろんあるだろう。
 だが、なんだか違う気がするのだ。謙虚なゼルックさんは、そういうことを口にする人ではないはずである。

「この中庭は、誰が整備したのですか?」
「実は、ここはエルディン様が整備したのです」
「エルディンが?」
「ええ、こういうことに興味があったそうです」
「そうなんですね……」

 中庭を整備したのがエルディン様と聞いて、私は驚いていた。
 彼が整備したとしたら、それはすごいことである。なぜなら、私や他の住人がまったく気づいていないからだ。
 こういうことに詳しい訳ではないが、流石に素人が整備していたらわかるはずである。それがわからないくらい、エルディンは見事な庭を作っているのだ。

「エルディン様は、花や草木を愛しておられます。愛がなければ、このような庭は作れません」
「愛ですか……確かに、愛が籠っている気がします」
「貴族であるエルディン様に対して、こういうことを言うのは失礼かもしれませんが、立派な庭師になれますよ」
「……それは、本人に言っていいと思います。きっと、喜びますよ」
 
 エルディンは、本職の庭師に褒められる程、いい仲庭を作っていた。
 それは、大変なことだっただろう。生半可な気持ちではできなかったはずだ。
 エルディンは、自然を愛する優しい心を持っている。そんな彼の精神は、とても素晴らしいものだ。

 そんな彼も、当主になれる素質を持っている気がしてきた。
 あの優しさは、きっとメルスード家をいい方向に導いてくれるのではないだろうか。

 やはり、私は単純なのかもしれない。弟の知らない一面を見ると、すぐに考えを変えてしまう。
 ウルーグもエルディンも、当主に充分相応しい気がする。私は、何を基準に判断すればいいのだろうか。
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