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私は、ウェルリフ伯爵の元を訪ねていた。
部屋に訪れた私を、彼は快く部屋に入れてくれた。いつも通りの飄々とした笑顔で、私を迎え入れてくれたのだ。
その様子に、私は今までと違う感想を抱いていた。もしかしたら、その笑顔は彼の中にある感情の象徴なのではないかと思ったのだ。
「それで、どうしたんですか? こんな夜中に、僕を訪ねて来るなんて」
「ウェルリフ伯爵……いえ、アルザー様に少し聞きたいことがあるのです」
「おや……」
私は、ウェルリフ伯爵に対する呼称を改めた。彼個人と話をするために、そうした方がいいと思ったのだ。
今目の前にいるのは、アルザー様という一人の人間である。ウェルリフ伯爵だとか、血塗れ伯爵だとか、そういう呼び名や異名で呼ぶべきではないだろう。
「この手紙は、あなたが書いたものですよね?」
「……ああ」
私が手紙を見せると、アルザー様は全てを察したような顔をした。
しかし、その顔はすぐにいつもの笑みに戻る。
「もう気づかれたのですね? 思ったよりも早かった……」
「……お父様から、手紙を預かっていました。あなたからの手紙です。人となりを知ってもらいたいと渡されて……あ、これは実は秘密だったのですが」
「そうだったのですね……それは、予想外でした」
アルザー様が驚いていたのは、発覚が早かったからのようだ。
ということは、遅かれ早かれ手紙のことはばれると思っていたということだろう。確かに、字を見ただけでわかったのだから、初めから隠す気はそれ程なかったのかもしれない。
「……その手紙に書いてあることは、事実ですよ? それで、何が聞きたいのでしょう?」
アルザー様は、特に表情を変えることなくそのようなことを聞いてきた。
その笑顔から、私は不安のようなものを感じ取っていた。期待もあるかもしれない。彼は、私の言葉を相反する二つの感情を持ちながら待っているのだ。
「アルザー様、私はあなたが何者なのか、ずっと考えていました。最初は、冷酷な殺人鬼だと思いました。手紙を読んで、あなたは女性を救おうとしているのだと思いました。でも、ただの偶然である可能性もあって、結局、私の中で答えは出なかったのです」
「……」
「あなたが何者か、私にはわかりません。もしかして……もしかして、あなたも同じなんじゃないでしょうか?」
「……!」
私の言葉に、アルザー様が目を丸くした。
その表情に私は思った。これはきっと、素の彼なのだと。
もしかしたら、私は今初めて、彼という人間と対面したのかもしれない。
部屋に訪れた私を、彼は快く部屋に入れてくれた。いつも通りの飄々とした笑顔で、私を迎え入れてくれたのだ。
その様子に、私は今までと違う感想を抱いていた。もしかしたら、その笑顔は彼の中にある感情の象徴なのではないかと思ったのだ。
「それで、どうしたんですか? こんな夜中に、僕を訪ねて来るなんて」
「ウェルリフ伯爵……いえ、アルザー様に少し聞きたいことがあるのです」
「おや……」
私は、ウェルリフ伯爵に対する呼称を改めた。彼個人と話をするために、そうした方がいいと思ったのだ。
今目の前にいるのは、アルザー様という一人の人間である。ウェルリフ伯爵だとか、血塗れ伯爵だとか、そういう呼び名や異名で呼ぶべきではないだろう。
「この手紙は、あなたが書いたものですよね?」
「……ああ」
私が手紙を見せると、アルザー様は全てを察したような顔をした。
しかし、その顔はすぐにいつもの笑みに戻る。
「もう気づかれたのですね? 思ったよりも早かった……」
「……お父様から、手紙を預かっていました。あなたからの手紙です。人となりを知ってもらいたいと渡されて……あ、これは実は秘密だったのですが」
「そうだったのですね……それは、予想外でした」
アルザー様が驚いていたのは、発覚が早かったからのようだ。
ということは、遅かれ早かれ手紙のことはばれると思っていたということだろう。確かに、字を見ただけでわかったのだから、初めから隠す気はそれ程なかったのかもしれない。
「……その手紙に書いてあることは、事実ですよ? それで、何が聞きたいのでしょう?」
アルザー様は、特に表情を変えることなくそのようなことを聞いてきた。
その笑顔から、私は不安のようなものを感じ取っていた。期待もあるかもしれない。彼は、私の言葉を相反する二つの感情を持ちながら待っているのだ。
「アルザー様、私はあなたが何者なのか、ずっと考えていました。最初は、冷酷な殺人鬼だと思いました。手紙を読んで、あなたは女性を救おうとしているのだと思いました。でも、ただの偶然である可能性もあって、結局、私の中で答えは出なかったのです」
「……」
「あなたが何者か、私にはわかりません。もしかして……もしかして、あなたも同じなんじゃないでしょうか?」
「……!」
私の言葉に、アルザー様が目を丸くした。
その表情に私は思った。これはきっと、素の彼なのだと。
もしかしたら、私は今初めて、彼という人間と対面したのかもしれない。
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