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91.苦い経験

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「……二人とも、少しいいかな?」
「え?」
「うん? どうした? キャロム君?」

 そこで、私達にキャロムが話しかけてきた。なんというか、恐る恐るといった風である。
 確かに、私達は少し二人の世界に入っていたような気がする。キャロムからしてみれば、少し置いてけぼりだったかもしれない。

「そういうことなら、僕も参加させてもらえないかな?」
「え? キャロムも?」
「それは、兄上と一緒に指導してくれるということか?」

 キャロムの言葉に、私もドルキンスも首を傾げた。何故、彼がそんなことを言うのか、少しわからなかったからだ。
 キャロムは、既に魔法に秀でている。今更、私達と一緒に学ぶ必要があるとは思えない。
 ということは、ドルキンスの言っている通り、先生として参加したいということだろうか。

「いや、そうじゃないんだ。二人が強くなりたいのと同じように、僕も強くなりたいんだ」
「キャロム君は、もう充分強いんじゃないのか?」
「確かに、僕は人よりも優れた力は持っている。でも、それでもシャザームには対抗できなかった。体育館での戦いの時、僕はあの暗黒の魔女に歯が立たなかったんだ……」
「それは……」

 私は、体育館で暗黒の魔女シャザームと対峙した時のことを思い出した。
 確かに、あの時キャロムは暗黒の魔女の分割された魂が入ったレフェイラに敗北していた。それは、紛れもない事実である。
 人より優れていると自覚していても、あの敗北で彼も私と同じことを思ったようだ。それだけ、あれは彼にとって苦い経験だったのだろう。

「生徒会長は、僕よりも実力が上だ。そんな彼の元で学べば、僕も何か掴めるかもしれない……駄目かな?」
「別に、駄目なんてことはないよ。少し驚いただけ」
「そういうことさ。俺達から見れば、キャロム君は充分上だからな」

 私もドルキンスも、キャロムがともに学ぶことに異論がある訳ではない。それは、むしろ歓迎したいくらいだ。

「よし、そういうことなら、ディゾール様にその旨を伝えないとね」
「兄上に……そうか、そういうことになるのか」
「ドルキンス、緊張しているのかい?」
「あ、ああ……別にやましいことは何もないんだが、兄上と話すとなると俺はどうも緊張してしまうんだ……」
「でも、これからその人に師事するんだよ?」
「た、確かにそうか……」

 ドルキンスは、ディゾール様と話すことを恐れている。それは、前々からわかっていたことだ。
 だが、それはこれから克服していかなければならないだろう。魔法の訓練をきちんとするためにも。
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