上 下
27 / 132

27.凡人からすると

しおりを挟む
「成果が出せなかったら、怒られたんだ。どうして、できないんだって……だから、僕は成果を出した。誰よりも優秀でなければ、僕は駄目なんだ。だって、そうでなければ、僕は認められないんだから……」
「認められない……か」

 キャロムは、かなり思い詰めたような顔をしている。それは恐らく、成果が出せなくなって、両親に認められないという恐怖からのものなのだろう。
 彼の根底には、それがある。両親に認められなければならない。その強迫観念のようなものこそが、彼の今までの行動の裏にあったものなのだ。
 メルティナが自分より上だと認めれば、自分が認められなくなる。それは、彼にとって絶対に避けたいことなのだろう。

「なるほど……あなたが、どうしてメルティナに負けたくなかったのか、それは理解できたわ」
「そう……それで、あなたはどう思ったのかな?」
「それは……」

 キャロムに聞かれて、私は少し考える。彼の根底にある感情は、両親に対するものだ。それをどうにかするには、とても難しいものだろう。
 私の考えを伝えることはできる。だが、それで彼の中にあるわだかまりを取り除くことができるのだろうか。
 結局の所、それは両親との問題だ。私が何か言っても、無駄な可能性はある。
 しかし、それでも話さなければ、何も進まない。ここは、思い切って、私の考えを話してみるべきだろう。

「二人とも、こんな所で何をしているんだ?」
「え?」
「え?」

 私が言葉を口にする前に、一人の男性の声が辺りに響いた。声の方向に、私達はその方向を向く。すると、そこには私の隣の席のドルキンスがいた。
 初めは驚いた私だったが、すぐに理解できた。恐らく、窓から私達が見えて、様子を見に来たのだろう。
 私が隣に座っていることもあって、ここに人がいるということは、先程よりもわかりやすくなっているはずだ。普通に話しているため、そこまでおかしいとは思われないだろうが、知人がいたら様子を見に来るというのは至極普通の行動だろう。

「おっと、もしかして邪魔をしてしまったのか? 二人で蜜月を過ごしていたのだとしたら、俺はお邪魔虫だったな……」
「蜜月? 違う違う」
「少し話をしていたのです」
「うん? そうなのか。しかし、なんでこんな所で……」

 私達の言葉に、ドルキンスは少し考えるような表情をした。この状況がどういうものなのか、なんとなく察したようである。

「なるほど……キャロム君は、メルティナさんに負けたことに、まだ落ち込んでいたんだな……」
「え、えっと……」
「ふむ……まあ、あんな負け方をすれば、落ち込むのは普通のことだ。だが、あまり落ちんでもいいことなんてないぞ。人間、失敗や敗北なんてものはつきものだ。すぐにとはいわないが、早い所切り替える方が楽なものだぞ?」

 ドルキンスは、キャロムに対して一気にまくし立てた。すらすらと出てくるその言葉に、私は素直にすごいと思っていた。
 彼の言葉には、棘や嫌味というものがない。とても真っ直ぐなその言葉は、爽やかな印象さえ与えてくる。

「そもそも、俺からすれば、キャロム君が何に悩んでいるかわからんな……君は、優れた魔力を持っている。それなのに、どうして悩む必要があるんだ? なんというか、少し贅沢なような気がしてしまうな……」
「贅沢……?」
「だって、そうだろう。他のほとんどの人より優秀であるというのに、上にいる一人を見て思い悩むなんて……俺からすれば、贅沢な悩みさ。俺の魔力は五十三。俺なんか、どれだけ上がいることか……」
「そ、それは……」

 ドルキンスは、少し落ち込んでいた。それは、自分の魔力が平均よりも低いことを悲しんでいるのだろう。
 その様子を見て、キャロムは言葉に詰まっている。流石に、このドルキンスに返す言葉はなかったということだろうか。

「兄上にはいつも怒鳴られるし、父上や母上も俺のことなんか既に見放しているようなものだ。俺ももっと優秀だったら、そう思うことが、何度あったことか……」
「そ、そうなのかい?」
「ああ、俺からすれば、キャロム君が羨ましくて仕方ない。それだけの魔力があれば、俺も……おっと、すまないな。俺のことなんて、どうでもいいことだ」

 ドルキンスは、キャロムが困惑していることに気づいたからか、先程までの雰囲気を一変させて笑顔を見せた。そういう風に、すぐに切り替えられるのも、彼のすごい所だと思う。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

自己中すぎる親友の勘違いに巻き込まれ、姉妹の絆がより一層深まったからこそ、お互いが試練に立ち向かえた気がします

珠宮さくら
恋愛
とある国にシャーリー・オールポートという侯爵令嬢がいた。そんな彼女のことを親友だとしつこく言い続けていたのは伯爵令嬢で、これまでも周りはたくさんシャーリーの名前と侯爵家の名前を出して迷惑していた。 そんな彼女が婚約破棄をしようと必死になっているのを知って、シャーリーは不思議に思っていたが、そこからシャーリーの姉のことをどう思っていたかを知ることになる前には、人の話も聞かずにシャーリーは彼女から平手打ちをされていた。 そんなことがあって、シャーリーは姉妹の絆を深めることになるとは思いもしなかった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...