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25.落ち込む彼は
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結局、キャロムは授業に戻ってこなかった。彼にとって、あの敗北はそれ程に屈辱的なものだったようだ。
授業を途中で抜けるのは、明らかによくないことである。だが、戻ることができないという彼の気持ちはわからない訳ではない。あんな出来事があった後に、戻って来るなんて、誰だって無理な話だ。
「あっ……」
「アルフィアさん、どうかしたのですか?」
昼休み、私はメルティナとともに食堂に向かっていた。その道中、私は窓の外にとある人物を発見する。
それは、キャロムだ。彼は、校舎裏の隅で膝に顔を埋めるような形で、三角座りしている。位置関係的に、私からはそれがぎりぎり見えてしまったのだ。
「どうやら、キャロムはまだ立ち直れていないみたいね……」
「そうみたいですね……」
キャロムは、まだ落ち込んでいるようだった。あの様子からして、例え午後の授業が始まっても、教室には戻らなさそうである。このまま、放課後になっても丸くなっていそうなくらいだ。
というか、実際に彼は戻らなかったはずである。確か、彼が教室に帰ってきたのは、一日経ってからだったはずだ。
「アルフィア様、非常に申し訳ないのですが、少し頼んでもいいですか?」
「頼む? 何かしら?」
「彼を連れ戻してもらえませんか? 流石に、このまま放っておくのは気が引けてしまって……」
「そうね……」
メルティナは、とても申し訳なさそうに頼みごとをしてきた。
恐らく、彼女は自らのキャロムへの行いに罪悪感のようなものを覚えている。彼女が悪いはずはないのだが、それでもそういう感情が芽生えてしまっているのだろう。
しかし、彼女が自らキャロムに声をかけることはできない。それは、追い打ちになる可能性が高いからだ。
だから、彼女は私に頼んでいるのだろう。部外者である私なら、しがらみもそこまでない。キャロム側からしても、メルティナに来られるよりはましだろう。
「……わかったわ。それじゃあ、行ってくるわね」
「ありがとうございます……」
私は、メルティナの頼みを聞くことにした。
ゲームの時、私はメルティナに感情移入して考えていた。そのため、キャロムを追いかけることはできないとそう思ったのである。
だが、今の私はアルフィアだ。そんな私なら、キャロムに対して何か言えるかもしれない。
そう思ったから、私は行動を開始した。深呼吸してから、私はキャロムの元に向かう。
「……キャロム、こんな所で何をしているのかしら?」
「……え?」
私が声をかけると、キャロムは顔を上げて驚いたような表情をした。恐らく、見つからないと思っていたのだろう。
私が見つけられたくらいなのだから、ここは別に誰からでも見える位置であるはずだ。それなのに、こういう反応をしているということは、本人はそれに気づいていないということだろう。
今まで声をかけられなかったのは、単純に見ないふりをしていただけだろうか。それとも、本当に偶然誰にも見つかっていなかったのだろうか。
どちらにしても、このままここでうずくまっているのはよくない。それは、彼にとってかなり嫌なことであるはずだ。
「廊下から、あなたの姿が見えたのよ。その位置だと、ぎりぎり見えるみたいね」
「なっ……!」
私の言葉に、キャロムは後ろを向いた。その後、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。
やはり、彼は誰にも見つからないと思っていたようだ。それが間違いだと気づいた今の彼の心情は、かなり苦しいものだろう。こちらからすると、少しおかしいというか、微笑ましいことではあるのだが。
授業を途中で抜けるのは、明らかによくないことである。だが、戻ることができないという彼の気持ちはわからない訳ではない。あんな出来事があった後に、戻って来るなんて、誰だって無理な話だ。
「あっ……」
「アルフィアさん、どうかしたのですか?」
昼休み、私はメルティナとともに食堂に向かっていた。その道中、私は窓の外にとある人物を発見する。
それは、キャロムだ。彼は、校舎裏の隅で膝に顔を埋めるような形で、三角座りしている。位置関係的に、私からはそれがぎりぎり見えてしまったのだ。
「どうやら、キャロムはまだ立ち直れていないみたいね……」
「そうみたいですね……」
キャロムは、まだ落ち込んでいるようだった。あの様子からして、例え午後の授業が始まっても、教室には戻らなさそうである。このまま、放課後になっても丸くなっていそうなくらいだ。
というか、実際に彼は戻らなかったはずである。確か、彼が教室に帰ってきたのは、一日経ってからだったはずだ。
「アルフィア様、非常に申し訳ないのですが、少し頼んでもいいですか?」
「頼む? 何かしら?」
「彼を連れ戻してもらえませんか? 流石に、このまま放っておくのは気が引けてしまって……」
「そうね……」
メルティナは、とても申し訳なさそうに頼みごとをしてきた。
恐らく、彼女は自らのキャロムへの行いに罪悪感のようなものを覚えている。彼女が悪いはずはないのだが、それでもそういう感情が芽生えてしまっているのだろう。
しかし、彼女が自らキャロムに声をかけることはできない。それは、追い打ちになる可能性が高いからだ。
だから、彼女は私に頼んでいるのだろう。部外者である私なら、しがらみもそこまでない。キャロム側からしても、メルティナに来られるよりはましだろう。
「……わかったわ。それじゃあ、行ってくるわね」
「ありがとうございます……」
私は、メルティナの頼みを聞くことにした。
ゲームの時、私はメルティナに感情移入して考えていた。そのため、キャロムを追いかけることはできないとそう思ったのである。
だが、今の私はアルフィアだ。そんな私なら、キャロムに対して何か言えるかもしれない。
そう思ったから、私は行動を開始した。深呼吸してから、私はキャロムの元に向かう。
「……キャロム、こんな所で何をしているのかしら?」
「……え?」
私が声をかけると、キャロムは顔を上げて驚いたような表情をした。恐らく、見つからないと思っていたのだろう。
私が見つけられたくらいなのだから、ここは別に誰からでも見える位置であるはずだ。それなのに、こういう反応をしているということは、本人はそれに気づいていないということだろう。
今まで声をかけられなかったのは、単純に見ないふりをしていただけだろうか。それとも、本当に偶然誰にも見つかっていなかったのだろうか。
どちらにしても、このままここでうずくまっているのはよくない。それは、彼にとってかなり嫌なことであるはずだ。
「廊下から、あなたの姿が見えたのよ。その位置だと、ぎりぎり見えるみたいね」
「なっ……!」
私の言葉に、キャロムは後ろを向いた。その後、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。
やはり、彼は誰にも見つからないと思っていたようだ。それが間違いだと気づいた今の彼の心情は、かなり苦しいものだろう。こちらからすると、少しおかしいというか、微笑ましいことではあるのだが。
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