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20.その手を取るべきか

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「私の杞憂であるという可能性はあるでしょう……ただ、思っていたのです。時が巻き戻って、私の記憶が保持されているということには、何か意味があるのではないかと」
「あなたは、それがアルフィアを操っていた者を探すことだと思った訳ね?」
「ええ、そうです。今回の出来事で、それは確信に変わりました。アルフィアがいなくなっても、私を虐げる者はいて、そして彼女もまた何かに追い詰められているかのような態度をしていた。やはり、彼女達の裏には何者かがいる……私は、そう思っているのです」
「何者か……か」

 アルフィア達を裏から操る者。それは考えもしていなかったことだが、メルティナの言葉を聞いていると、真実であるような気がしてきた。
 もしそうだとしたら、一体誰が彼女達を操っているのだろうか。それは、とても重要なことだが、とても難しいことである。

「……あなたに、お願いしたいことがあります」

 私が考えていると、メルティナがそう切り出してきた。彼女のその凛々しい表情に、堂々とした態度に、私は以前彼女がまるでゲームの終盤のようだと感じたことを思い出した。
 その謎は、既に解けている。彼女は、一度この学園でゲームの本編にあたる一年を過ごした。そんな彼女が、終盤のようになるのは、当然のことだ。

「どうか、私と一緒に黒幕にあたる人物を探してくれませんか? あなたは信頼できる人です。だから、力を貸して欲しいのです」
「メルティナ……」

 メルティナは、私に向かってその手を差し出してきた。私は、少し考える。その手を取るべきなのかどうかを。
 私は、自分が破滅しなければいいとそう思っていた。そのために、今まで生きてきたのである。
 この手を取れば、厄介なことに巻き込まれることになるかもしれない。その可能性はあるだろう。
 彼女には申し訳ないが、これは私には関係がないことだ。彼女にとっては解決しなければならない問題でも、今の私には関係がない。私に、危害が及ぶ訳ではないのだから。

「……私でよければ」
「ありがとうございます」

 だが、私は彼女の手を取っていた。厄介なことに首を突っ込むことになる。それはわかっている。しかし、それでもこの手を取るべきだと思ったのだ。
 理由は二つある。一つは、目の前にいる彼女だ。慣れ親しんだ主人公で、今は友人である彼女の手を払いのけるなんて、それはしたくなかった。
 もう一つは、アルフィアだ。今の私は、彼女の境遇を知っている。憎たらしくて仕方なかった彼女の心の傷を、私も負っているのだ。
 そんな彼女が、もし何者かによって陥れられたなら、その人物を許せない。そんな思いが、私の中には芽生えていたのだ。

「……さて、それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「行く? どこにですか?」
「お昼は、まだ食べていないのでしょう? 早くしないと、お昼休みが終わってしまうわよ?」
「……そうですね」

 私の言葉に、メルティナは笑顔を見せてくれた。
 とりあえず、難しい話は一旦終わりだ。流石に昼食を抜きたくはないので、早い所行動した方がいいだろう。

「あ、アルフィアさん、ここにいましたか」
「え?」
「あっ……」

 そんな私達の元に、二人の男性が駆け寄ってきた。バルクド様とリオーブが、少し焦った様子で現れたのである。

「どうかしたのですか? そんなに慌てて……」
「いえ、それが……」
「こいつ曰く、あんたの様子がおかしかったそうだ。忘れ物を取りに行くと言ったが、どうもそうには見えなかったそうだ」
「ああ、そういうことだったのですね……」

 どうやら、バルクド様は私のことを心配して来てくれたようだ。考えてみれば、あの時の私はかなり焦っていた。変に思うのも、当然のことかもしれない。

「それより、何も問題はありませんか?」
「……ええ、忘れ物を取った後、メルティナを見つけたので、二人で少し秘密の話をしていただけですよ」
「そうでしたか……」

 バルクド様とリオーブに、私は真実を伝えないことにした。それは、メルティナの表情がそうして欲しいと物語っていたからだ。
 恐らく、彼女としてはあの令嬢達の行動を抑制したくないのだろう。今の所、黒幕に繋がる手がかりは彼女達だけだ。その彼女達が、バルクド様やリオーブに抑えつけられると、逆に困るのだろう。

「丁度、そろそろ昼食にしようと言っていた所ですから、行きましょう。早くしないと、昼休みが終わってしまいます」
「あ、そうですね……」

 私の言葉に、バルクド様は頷いてくれた。色々とあったが、やっと食堂に向かえそうである。
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