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62.彼女ではなく

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 不安そうに苦しそうに笑顔を浮かべるエムリーを見ながら、私はかつての彼女をまた思い出していた。
 刺々しく活力に溢れた彼女のことが、私は憎らしくて仕方なかった。それは当然だ。あの妹は、私に害をなしていた。嫌わない理由がない。
 ただ、今の彼女はあの時とは違う。純粋な少女となった彼女はあのエムリーではないだろう。

「……ああ」
「……お姉様?」

 そうやって考えていくと、なんだか心が落ち着いてきた。
 私は一体、何に悩んでいたのだろうか。今までの自分が馬鹿らしくなってくる。

「ふふっ……」
「お姉様? どうかされたのですか?」

 この子のことをあのエムリーだと思ってはいけない。切り離して考えなければ、ならないことだったのだ。
 なんというか、今回の件に対する心の整理がやっとついたような気がする。そう思った瞬間、私は清々しい程に明るく笑うことができていた。

「確かにあなたとは色々とあったのは事実ね。でも、そのことを今のあなたに言っても仕方ないことじゃない」
「えっと……でも、そうすることでお姉様の心が少しでも晴れるなら……」
「今のあなたをなじった所で、心なんて晴れないわ。何も知らない少女をいたぶる趣味は、私にはないのだから。それに言いたいことは、皆昔のあなたに言っていたしね」

 肩の荷が下りたためか、私の口からはすらすらと言葉が出てきた。
 明るく笑うこともできる。こんなにも清々しい気持ちになれたのは、なんだか随分と久し振りのような気もがする。

「言っておくけれど、別に私はあなたにやられっ放しだったという訳ではないの。私だってあなたにやり返していたし、私達の関係は対等だった。その点に関して、私のことをあまり見くびらないで欲しいわね」
「い、いえ、見くびってはいませんが……」

 私の変化に、エムリーは困惑しているようだった。
 とりあえず今は、捲し立てるべきだろう。彼女に考える隙を与えてはいけない。私の気持ちを一方的に押し付けることによって、エムリーには半強制的に納得させるのだ。

「まあだから、昔のことなんて今のあなたが気にすることではないのよ。私も気にしないことにするから、あなたも気にしないことにしなさい」
「で、でも……」
「はあ……今日は疲れたし、そろそろ寝るとしましょうか」
「え? ええっ? お、お姉様……」

 困惑するエムリーを放っておきながら、私は布団を被った。
 これだけ私の意識を押し付けておけば、彼女の憂いも少しは収まるだろう。
 もし明日も引きずっているような場合は、その時に考える。とにかく今は、呆気からんとしているのが有効だろう。
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