62 / 100
62.彼女ではなく
しおりを挟む
不安そうに苦しそうに笑顔を浮かべるエムリーを見ながら、私はかつての彼女をまた思い出していた。
刺々しく活力に溢れた彼女のことが、私は憎らしくて仕方なかった。それは当然だ。あの妹は、私に害をなしていた。嫌わない理由がない。
ただ、今の彼女はあの時とは違う。純粋な少女となった彼女はあのエムリーではないだろう。
「……ああ」
「……お姉様?」
そうやって考えていくと、なんだか心が落ち着いてきた。
私は一体、何に悩んでいたのだろうか。今までの自分が馬鹿らしくなってくる。
「ふふっ……」
「お姉様? どうかされたのですか?」
この子のことをあのエムリーだと思ってはいけない。切り離して考えなければ、ならないことだったのだ。
なんというか、今回の件に対する心の整理がやっとついたような気がする。そう思った瞬間、私は清々しい程に明るく笑うことができていた。
「確かにあなたとは色々とあったのは事実ね。でも、そのことを今のあなたに言っても仕方ないことじゃない」
「えっと……でも、そうすることでお姉様の心が少しでも晴れるなら……」
「今のあなたをなじった所で、心なんて晴れないわ。何も知らない少女をいたぶる趣味は、私にはないのだから。それに言いたいことは、皆昔のあなたに言っていたしね」
肩の荷が下りたためか、私の口からはすらすらと言葉が出てきた。
明るく笑うこともできる。こんなにも清々しい気持ちになれたのは、なんだか随分と久し振りのような気もがする。
「言っておくけれど、別に私はあなたにやられっ放しだったという訳ではないの。私だってあなたにやり返していたし、私達の関係は対等だった。その点に関して、私のことをあまり見くびらないで欲しいわね」
「い、いえ、見くびってはいませんが……」
私の変化に、エムリーは困惑しているようだった。
とりあえず今は、捲し立てるべきだろう。彼女に考える隙を与えてはいけない。私の気持ちを一方的に押し付けることによって、エムリーには半強制的に納得させるのだ。
「まあだから、昔のことなんて今のあなたが気にすることではないのよ。私も気にしないことにするから、あなたも気にしないことにしなさい」
「で、でも……」
「はあ……今日は疲れたし、そろそろ寝るとしましょうか」
「え? ええっ? お、お姉様……」
困惑するエムリーを放っておきながら、私は布団を被った。
これだけ私の意識を押し付けておけば、彼女の憂いも少しは収まるだろう。
もし明日も引きずっているような場合は、その時に考える。とにかく今は、呆気からんとしているのが有効だろう。
刺々しく活力に溢れた彼女のことが、私は憎らしくて仕方なかった。それは当然だ。あの妹は、私に害をなしていた。嫌わない理由がない。
ただ、今の彼女はあの時とは違う。純粋な少女となった彼女はあのエムリーではないだろう。
「……ああ」
「……お姉様?」
そうやって考えていくと、なんだか心が落ち着いてきた。
私は一体、何に悩んでいたのだろうか。今までの自分が馬鹿らしくなってくる。
「ふふっ……」
「お姉様? どうかされたのですか?」
この子のことをあのエムリーだと思ってはいけない。切り離して考えなければ、ならないことだったのだ。
なんというか、今回の件に対する心の整理がやっとついたような気がする。そう思った瞬間、私は清々しい程に明るく笑うことができていた。
「確かにあなたとは色々とあったのは事実ね。でも、そのことを今のあなたに言っても仕方ないことじゃない」
「えっと……でも、そうすることでお姉様の心が少しでも晴れるなら……」
「今のあなたをなじった所で、心なんて晴れないわ。何も知らない少女をいたぶる趣味は、私にはないのだから。それに言いたいことは、皆昔のあなたに言っていたしね」
肩の荷が下りたためか、私の口からはすらすらと言葉が出てきた。
明るく笑うこともできる。こんなにも清々しい気持ちになれたのは、なんだか随分と久し振りのような気もがする。
「言っておくけれど、別に私はあなたにやられっ放しだったという訳ではないの。私だってあなたにやり返していたし、私達の関係は対等だった。その点に関して、私のことをあまり見くびらないで欲しいわね」
「い、いえ、見くびってはいませんが……」
私の変化に、エムリーは困惑しているようだった。
とりあえず今は、捲し立てるべきだろう。彼女に考える隙を与えてはいけない。私の気持ちを一方的に押し付けることによって、エムリーには半強制的に納得させるのだ。
「まあだから、昔のことなんて今のあなたが気にすることではないのよ。私も気にしないことにするから、あなたも気にしないことにしなさい」
「で、でも……」
「はあ……今日は疲れたし、そろそろ寝るとしましょうか」
「え? ええっ? お、お姉様……」
困惑するエムリーを放っておきながら、私は布団を被った。
これだけ私の意識を押し付けておけば、彼女の憂いも少しは収まるだろう。
もし明日も引きずっているような場合は、その時に考える。とにかく今は、呆気からんとしているのが有効だろう。
87
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~
瑠美るみ子
恋愛
サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。
だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。
今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。
好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。
王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。
一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め……
*小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!
新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…!
※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります!
※カクヨムにも投稿しています!
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
【完結保証】あれだけ愚図と罵ったんですから、私がいなくても大丈夫ですよね? 『元』婚約者様?
りーふぃあ
恋愛
有望な子爵家と婚約を結んだ男爵令嬢、レイナ・ミドルダム。
しかし待っていたのは義理の実家に召し使いのように扱われる日々だった。
あるパーティーの日、婚約者のランザス・ロージアは、レイナのドレスを取り上げて妹に渡してしまう。
「悔しかったら婚約破棄でもしてみろ。まあ、お前みたいな愚図にそんな度胸はないだろうけどな」
その瞬間、ぶつん、とレイナの頭の中が何かが切れた。
……いいでしょう。
そんなに私のことが気に入らないなら、こんな婚約はもういりません!
領地に戻ったレイナは領民たちに温かく迎えられる。
さらには学院時代に仲がよかった第一王子のフィリエルにも積極的にアプローチされたりと、幸せな生活を取り戻していく。
一方ロージア領では、領地運営をレイナに押し付けていたせいでだんだん領地の経営がほころび始めて……?
これは義両親の一族に虐められていた男爵令嬢が、周りの人たちに愛されて幸せになっていくお話。
★ ★ ★
※ご都合主義注意です!
※史実とは関係ございません、架空世界のお話です!
※【宣伝】新連載始めました!
婚約破棄されましたが、私は勘違いをしていたようです。
こちらもよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる