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8.彼からの提案で

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「ロダルト様、あなたは自分が何を言っているのかわかっているのですか?」
「僕はエムリー嬢を救いたいんだ」

 私の言葉に対して、ロダルト様は少し語気を強めて返答をしてきた。
 その言葉から察するに、彼の決意は固いということだろう。

「故に君との婚約に関しては、破棄させてもらうことになる。ただ、エムリーはルヴィード子爵家の人間だ。故に両家の間に交わされた婚約がそこまで変化するという訳ではない。相手が変わるだけだからね」
「相手が変わるだけ、なんて……そんな簡単に言わないでください。それが大事であるということを、あなたは理解していません」

 ロダルト様の言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。
 婚約破棄されたエムリーを救いたい。流れとして、そこまでは理解できる。
 しかしそれでどうして、エムリーと婚約するということになるのだろうか。それは色々な前提を覆し過ぎている。

「お姉様、往生際が悪いですよ」
「……え?」

 そんな私に、声をかけてくる人がいた。
 その声は、何度も聞いている。私にとって、もっとも聞きたくない声だ。

「エムリー……」
「ふふっ……」

 私の妹、エムリーはゆっくりと私の前に現れた。
 その表情は、歪んでいる。なんとも楽しそうな、私を見下した笑みを浮かべている。
 やはり今回の件も、この妹が裏で手を引いていたということだろうか。私はまたしても、この妹にしてやられてしまったのかもしれない。

「ロダルト様は、私のことを選んでくれたのです。お姉様ではなく、この私を!」

 エムリーが嬉々として、私を煽ってきた。
 それを私は、黙って受け入れることしかできない。最早ロダルト様の考えを変えることはできないだろう。この場において、優位に立っているのはこの妹だ。

 しかし、この妹が出張ってきたということは、ロダルト様が乱心しているという訳ではないということだろう。
 彼は恐らく、エムリーと何かしらの取引を交わしたのだ。そうでなければ、こんな風に考えを変えるなんてあり得ない。

「なるほど……同情を煽っていたのは、この時の布石ということなのね」
「ふふ、まあ間違ってはいませんが、正確ではありませんね」
「なんですって?」
「今回の件は、ロダルト様から言ってくれたことです。正直な所、私にとっても予想外のことだったのですよ」

 私の考えは、一瞬でエムリーに否定されてしまった。
 彼女が本当のことを言っているかは定かではないが、もしも本当だとすると、ロダルト様が乱心したということになる。
 私はひどく混乱することになった。一体私の婚約者は、どうしてしまったのだろうか。
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