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11.重い空気

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「ヴァルガド伯爵、随分と待ちましたよ。あなたにしては、往生際が悪いことこの上ないですな」
「アラドム伯爵、今回の件であなたには多大な迷惑をかけた。そのことに関しては、謝罪しましょう。大変申し訳なかったと……」
「それで許すと言うとは思っておりませんな?」
「もちろんです。謝罪は誠意で支払いましょう」

 お父様とヴァルガド伯爵は、そのように会話を交わした。
 二人の間に流れる空気は重い。それは当然といえるだろう。ここ最近で、二人の間には色々とありすぎたのだ。

「しかしヴァルガド伯爵、一体何があったのですか? 我々は事件の当事者として、それを知る権利があるはずですが」
「わかっております。当然、それもお話しましょう。といっても、大方はわかっているのでしょう?」
「ご子息が不義理を働いていると、こちらは予測しておりますが」
「概ねその通りです。ローガルは随分と勝手な真似をしていました。いいえ、正確に言えば、今もしている」

 ヴァルガド伯爵は、そこで後ろに目をやった。
 恐らく、その方向にローガルはいるのだろう。もしかしたら、ソルリア嬢もいるかもしれない。

「話を遮って申し訳ないのですが、ヴァルガド伯爵に一つご質問があります」
「ゼルフォン侯爵令息、あなたの妹君ならこの屋敷にいますよ」
「やはりこちらでしたが、しかしヴァルガド伯爵、彼女は既に私の妹ではありません」
「む……」

 ゼルフォン様の冷たい言葉に、ヴァルガド伯爵は目を丸めていた。
 ただ、ゼルフォン様の主張は間違っているという訳ではない。ソルリア嬢は、既にイルベリード侯爵家の人間ではないのだ。それは強調しておかなければならない部分だろう。

「とはいえ、元家族として、彼女の始末はつけなければならないと考えています。ここにいるというなら、彼女と話をさせてください」
「……それに関して、私が反対する理由はありません。ただ、本人が応じるかどうかは微妙な所ですが」
「なるほど、あなたも困っているという訳ですか……」

 当たり前のことではあるが、ヴァルガド伯爵もこの状況を望んでいたという訳ではないようだ。
 不本意ではあるが事態を受け止めざるを得ない伯爵には、少し同情する。といっても、立場上それで容赦情けをかけるなどということはできないのだが。

「……騒がしいと思ったら、どうやらお客様がお見えのようですね」
「え?」

 そこで私達は、玄関にやって来た二人の人物に少し驚いた。
 一人はローガル、そしてもう一人はソルリア嬢なのだろう。二人は、ゆっくりとこちらに近づいてきている。騒ぎを聞きつけて、出てきたようだ。
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