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9.馬車の中で

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「……中々に厄介なことになりましたな」
「……私にとっては、自分達が蒔いた種です。被害者であるあなた方とは違います」

 私とお父様は、ゼルフォン様とともに馬車に乗っていた。
 行き先は、ヴァルガド伯爵家の屋敷である。色々とあって、私達は直接赴いて話をすることになったのだ。

「ゼルフォン侯爵令息、これまでやり取りしてきたことによって、あなたのことはある程度わかっているつもりです。あなたは妹の身勝手な行動に苦労している。その点において、私は少し同情的なのです」
「そう思っていただけるのは、ありがたい限りです。しかし結局の所、私達は妹の暴走を止められませんでしたからね」

 ゼルフォン様は、お父様の言葉に少し項垂れていた。
 今回の件で、お父様は彼のことをある程度信頼したらしい。それが言葉などから伝わってくる。
 それは恐らく、ゼルフォン様側も同じなのだろう。二人はいつの間にか、打ち解けたようだ。

「しかしながら、ヴァルガド伯爵家も強情ですね……そちらの手紙にも、応えなかったのでしょう?」
「ええ、はぐらかすような手紙しか返ってきませんでした。最早、埒が明かない。故に、訪ねるしかないと判断したのです」
「良い判断だと思います」

 お父様もゼルフォン様も、ヴァルガド伯爵には連絡をしていた。
 しかし彼はソルリア嬢の訪問の事実すら認めず、答えをはぐらかしているようだ。
 事実が発覚すればヴァルガド伯爵家にとって大きな打撃になるため、それは理解できない行動という訳でもない。ただ、それはあちらの都合であってこちらには関係がないことだ。

「判断というと、そちらの判断もかなり迅速でしたな。まさかこれ程まで早く、ソルリア嬢と縁を切るとは……」
「いえ、こちらにとってはそれ程早いことという訳でもないのです。ソルリアが何かしていることを、私達はわかっていましたから」

 イルベリード侯爵家は、ソルリア嬢と縁を切った。彼女は既に勘当されている。
 そんな彼女が、今どこにいるかは定かではない。ただ彼女が頼れるのはローガルくらいだろうし、彼の元にいる可能性が高そうだ。

「これでも父上は、ソルリアに再三注意していたのです。しかしながら、彼女はそれを聞かなかった。父上が何もできないと高を括っていたのでしょう。それに堪忍袋の緒が切れて、父上は勘当することを選んだのです」
「……娘や息子が聞き訳がないと、苦労するものなのでしょうな。そういう意味で、私は恵まれているといえる」
「お父様……ありがとうございます」

 お父様は、私に対して少しだけ笑みを浮かべてくれた。
 ソルリア嬢の行動は、反面教師にするべきだ。これからも私は貴族として、きちんと役割を果たすとしよう。
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