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3.帰ってきて早々

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「エリーナ、帰ってきたか」
「え? お父様?」

 アラドム伯爵家の屋敷に戻ってきた私は、玄関で待ち構えていたお父様に少し驚いた。
 こんな風に出迎えられるのは、中々あることではない。お父様は優しい方だが、娘の帰宅を玄関まで出てくる程心配性ではないはずなのだが。

「お父様、何かあったのですか?」
「ああ、お前に客人が来ているのだ。それが少々厄介な客人でな。お前を待っていたのだ」
「え? 一体どなたかが訪ねて来られたのですか?」
「イルベリード侯爵家の長男ゼルフォン侯爵令息だ」
「ゼルフォン侯爵令息……?」

 お父様の言葉に、私は首を傾げることになった。
 イルベリード侯爵家の名前は耳にしたことがある。貴族として生きていく中で、その存在を知ったのだろう。
 ただ、私はその家のことを知っているだけだ。知り合いなどではない。故に、その家の嫡子が訪ねて来る理由がまったくわからない。

「どうしてその方が、私を?」
「それがわからないから、私も困っているのだ。お前に何か心当たりがあるのではないかと思っていたが……」
「いいえ、まったく覚えがありません。えっと、その人は私を?」
「ああ、お前と話がしたいらしい。正確に言えば、私とお前になるか」

 お父様は、戸惑っている様子だった。私が帰って来ても、訪問者の意図が掴めない。故に混乱しているのだろう。
 正直、私も困惑している。ゼルフォン様は一体、どうしてここに来たのだろうか。

「しかしお前が何も知らないというならば、あまり考えても仕方はないか。とにかくゼルフォン侯爵令息から話を聞くしかなさそうだ」
「不安ですね……もしかしたら私は、彼に何か無礼を働いたのでしょうか? 覚えはまったくないのですが」
「エリーナ、不安なのはわかるが、堂々としろ。舐められた終わりだ。貴族たるもの毅然とした態度で話し合いには臨まなければならない」
「ええ、心得ています。気持ちを……切り替えます」

 お父様の言葉に頷きながら、私はゆっくりと深呼吸をする。
 相手は侯爵家の令息だ。地位としては、私達よりも上である。そんな彼に良いように利用されるというようなことはあってはならない。
 故に動揺を悟られるのは避けるべきことだ。言いくるめられないように、精神を強く持つ必要がある。

「帰って来て早々すまないな」
「いいえ、問題ありません。行きましょう、お父様」

 気持ちを切り替えた私は、お父様とともに歩き始めた。
 状況はよくわからないが、負けてはいけない。私は毅然とした態度で、ゼルフォン様との話し合いに臨むのだ。
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