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12.安らぎのある生活
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孤児院において、家事などは当番制だ。
皆で助け合って生活する。それが孤児院の基本的な方針だ。
今日の私は、洗濯の当番である。故に同じく当番のラミリィと一緒に、膨大な数の洗濯物を干しているのだ。
「アメリアお姉ちゃんは、王都では王城で暮らしていたんだっけ? メイドさんとかが、お世話してくれてたの?」
「洗濯物とかは、そうだね。食事も作ってもらっていたし、そう考えると豪華な生活だった気はする……まあでも、私はこっちの生活の方が楽だなぁ」
「そういうものかぁ。やっぱり緊張とかしてたの?」
「それはもう存分に……」
王城での暮らしは、いい暮らしだったことは間違いない。平民である私が、普通なら絶対に味わえないような生活である。
ただやはり、あそこでの生活は苦しかった。心落ち着ける時が、まったくなかったのだ。
自室に帰って来ても、仕事の休憩くらいにしか思えていなかったような気がする。私にとって、あそこは家足りえなかったということだろう。
「まあ、王城ってすごい所だもんね……私なんかは行く機会はないだろうけど、多分すごく緊張するだろうなぁ。だって、クラウス様の前でもがちがちになるもん」
「あ、でも私もクラウス様の前だとまだまだ緊張するよ? やっぱり自分の故郷の領主様のご子息って、特別なのかも」
「へー、そういうものなんだ……」
孤児院での生活は大変なこともあるが、それでも心には安らぎがある。王城であった辛いことの数々も、今ではそれでも気になっていない。
ただ、完全に晴れやかな気持ちという訳ではないというのが現状である。同僚のことが、心配なのである。
「アメリアお姉ちゃん、どうかしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
聖女ファルティア様の横暴は、私を排除した今も続いているはずだ。それによって、同僚達が苦しめられていないかは、気になっている。
といっても、今の私にそれを確かめる術はない。ブライト様やフォーマン様が、上手くやってくれているといいのだが。
「……あれ? お客さんかな?」
「え?」
そこでラミリィは、玄関の方向に視線を向けた。誰かが来たようである。
孤児院への客人は、それ程珍しいという訳ではない。ただ粗相がないように気を引き締めなければならない。
そう思っていた私は、客人の顔を見て驚くことになった。その人物の顔には、見覚えがあったのである。
「……ナーゼルさん?」
こちらに向かっているのは、間違いなくナーゼルさんだ。私のかつての同僚が、孤児院を訪ねて来たのである。
皆で助け合って生活する。それが孤児院の基本的な方針だ。
今日の私は、洗濯の当番である。故に同じく当番のラミリィと一緒に、膨大な数の洗濯物を干しているのだ。
「アメリアお姉ちゃんは、王都では王城で暮らしていたんだっけ? メイドさんとかが、お世話してくれてたの?」
「洗濯物とかは、そうだね。食事も作ってもらっていたし、そう考えると豪華な生活だった気はする……まあでも、私はこっちの生活の方が楽だなぁ」
「そういうものかぁ。やっぱり緊張とかしてたの?」
「それはもう存分に……」
王城での暮らしは、いい暮らしだったことは間違いない。平民である私が、普通なら絶対に味わえないような生活である。
ただやはり、あそこでの生活は苦しかった。心落ち着ける時が、まったくなかったのだ。
自室に帰って来ても、仕事の休憩くらいにしか思えていなかったような気がする。私にとって、あそこは家足りえなかったということだろう。
「まあ、王城ってすごい所だもんね……私なんかは行く機会はないだろうけど、多分すごく緊張するだろうなぁ。だって、クラウス様の前でもがちがちになるもん」
「あ、でも私もクラウス様の前だとまだまだ緊張するよ? やっぱり自分の故郷の領主様のご子息って、特別なのかも」
「へー、そういうものなんだ……」
孤児院での生活は大変なこともあるが、それでも心には安らぎがある。王城であった辛いことの数々も、今ではそれでも気になっていない。
ただ、完全に晴れやかな気持ちという訳ではないというのが現状である。同僚のことが、心配なのである。
「アメリアお姉ちゃん、どうかしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
聖女ファルティア様の横暴は、私を排除した今も続いているはずだ。それによって、同僚達が苦しめられていないかは、気になっている。
といっても、今の私にそれを確かめる術はない。ブライト様やフォーマン様が、上手くやってくれているといいのだが。
「……あれ? お客さんかな?」
「え?」
そこでラミリィは、玄関の方向に視線を向けた。誰かが来たようである。
孤児院への客人は、それ程珍しいという訳ではない。ただ粗相がないように気を引き締めなければならない。
そう思っていた私は、客人の顔を見て驚くことになった。その人物の顔には、見覚えがあったのである。
「……ナーゼルさん?」
こちらに向かっているのは、間違いなくナーゼルさんだ。私のかつての同僚が、孤児院を訪ねて来たのである。
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