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9.突きつけられた言葉

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 イドラス殿下の一言が効いたのか、アーゼス殿下は魔物の一件が解決してから、比較的大人しくなった。
 とはいっても、私が何か言う度に苦い顔をしてくるため、こちらとしては良い気分ではない。
 しかしそれでも、私の意見を受け入れてはくれた。イドラス殿下が基本的に私の味方をしてくれるため、アーゼス殿下も折れるしかなかったようである。

 そうやって執務を行っていく内に、わかったことがある。
 それはファーネイル地方の運営というものは、そこまで上手くいっていないということだ。アーゼス殿下の運営というものは、端的に言ってしまえば大雑把である。彼はこのファーネイル地方の特色というものを、考慮できていない気がした。

「イドラス殿下は、その辺りについてどう思われているのでしょうか?」
「それは……」
「何も気付いていないということはありませんよね?」

 私は、話が通じるイドラス殿下を中庭に呼び出して、それらについて聞くことにした。
 アーゼス殿下に、彼は色々と意見している。にも関わらず、その辺りの歪な面について口を出さないことに、私は疑問を覚えていた。
 私の質問に対して、彼は気まずそうな顔をしている。どうやら何かしらの事情があるようだ。

「……こんな所にいたのか」
「え?」

 私がイドラス殿下の返答を待っていると、その場にアーゼス殿下がやって来た。
 彼はいつになく上機嫌に笑みを浮かべている。しかもその隣には、見知らぬ女性がいた。身なりからして、貴族の令嬢だろうか。

「クーレリア嬢、俺はあなたとの婚約を破棄する」
「え?」
「兄上? 何を言っているのですか?」

 こちらに近づいてきたアーゼス殿下は、非常に憎たらしい笑みを浮かべながら、とんでもないことを言ってきた。
 婚約破棄、それは社交界において重大なことだ。二家の間で取り決めたことを覆すなど、あってはならない。それをアーゼス殿下はわかっているのだろうか。

「俺はこちらのペレリア嬢と新たに婚約する」
「クーレリア嬢、初めまして。私はパレイド伯爵家のペレリアと申します……と言っても、もうクーレリア嬢と関わり合うことなどないかもしれませんが」

 アーゼス殿下の隣にいた女性ペレリア嬢も、彼と同じような笑みを浮かべていた。
 既に新たな婚約者も見定めている所を見ると、どうやらこれは突発的なことという訳でもないらしい。
 となると、最近大人しくしていたのはこのためだったということだろうか。私は完全に、油断してしまっていたといえる。

「兄上、馬鹿なことはやめて――」
「黙っていろ、イドラス。言っておくが、こちらは既に父上を納得させられるだけの金も用意してある。お前が何を言おうと、これは覆らないぞ」
「なっ……!」

 イドラス殿下に言葉をかけた後、アーゼス殿下は私に近づいてきた。
 彼は私の耳元まで顔を近づけている。どうやら私だけに聞こえるように、何かを言うつもりであるらしい。

「クーレリア嬢、お前は確かに優秀な女かもしれない。だが、それは余計だったのだ。俺は自分よりも優秀な嫁なんて必要としていない。全てにおいて俺に従う従順さというものを、身に着けておくべきだったな」
「アーゼス殿下……」
「まあ、それももう既に遅いがな。これでお前とはおさらばだ……ふはっははっ!」

 私に好き勝手言った後、アーゼス殿下は高らかに笑い始めた。
 私はそれを聞きながら、唇を噛みしめる。単純に悔しかった。私はアーゼス殿下に、完全にしてやられてしまったようである。
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