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6.意見を出して
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しばらくの間ファーネイル地方のことを学んだ私は、アーゼス殿下の業務を手伝うようになった。
しっかりと事情を頭に叩き込んだお陰で、大抵のことには正しい対処ができていると思う。ただ何をどうすれば領民のためになるか、それを考えるのは難しいことだ。私の独りよがりなどになっていなければ良いのだが。
少し落ち着いてきたことだし、一度領地の民達から話を聞いた方が良いかもしれない。
そういった民との交流というものは重要だと、私は思っている。それは、彼らの事情を知る一番の機会であるのだから。
「……アーゼス殿下、少しよろしいでしょうか?」
「……なんだ?」
そんなことを思いながら生活をしている私は、時折問題に直面していた。
それは、アーゼス殿下の判断に関することである。彼が出した結論に対して、私が賛同できないということがあるのだ。
そういった時には、アーゼス殿下に意見をぶつけることにしている。いくら最高責任者であっても、彼の判断を妄信するべきではないと思うのだ。
「ハイゼルベルグ山脈の周辺で起こっている魔物の騒ぎについて、調査の必要はないと判断されているようですが、それは何故ですか?」
「……魔物の騒ぎなど、どこにでもあることだろう。一々それを気にして調査を行っていたら、きりがない。無駄なことを省くのは当然だ」
「普通はそうかもしれませんが、今回は違います。三年前に、同じような魔物の動きがあり、その後に多大な被害が出ています。ファーネイル地方は特殊な地方ではありますが、同じ動きである以上、注意は必要かと」
「三年前……?」
私の言葉に、アーゼス殿下は目を丸めていた。
そんな彼に対して、私は探しておいた資料を渡す。そこには、過去にあった出来事が記載されている。それで彼も、納得してくれることだろう。
「……ファーネイル地方は、毎年変化の激しい地方だ」
「もちろん、それはわかっています。しかし、もしもこれで被害が出てしまったら、それは問題ではないでしょうか?」
「それなら、あなたが責任を持て。調査の動員でかかったコストが無駄になるかもしれないのだからな」
「兄上、何を言っているのですか!」
アーゼス殿下の提案に対して、声を出したのはイドラス殿下であった。
その提案が歪なものであるため、抗議してくれているようだ。
その気持ち自体は、私にとってはありがたいものである。ただ今は、私の意見を通してもらえるなら細かいことはどうでも良い。
「イドラス殿下、大丈夫です。私は構いませんから」
「クーレリア嬢……」
「アーゼス殿下、それでは私の好きなようにしても構わないのですよ?」
「……ああ、好きにしろ」
アーゼス殿下は、私の言葉にぶっきら棒に答えた。
彼の視線は鋭い。なんというか、私に失敗して欲しいという気持ちが伝わって来る。彼は魔物の動きが、些細なことだと信じ込んでいるのだろう。
しかし私にとっては、それは最早どうでも良いことだ。調査できる時点で、私の目的は達成したといえる。目的は予防であって、予想が当たっているかどうかは関係ないのだ。
しっかりと事情を頭に叩き込んだお陰で、大抵のことには正しい対処ができていると思う。ただ何をどうすれば領民のためになるか、それを考えるのは難しいことだ。私の独りよがりなどになっていなければ良いのだが。
少し落ち着いてきたことだし、一度領地の民達から話を聞いた方が良いかもしれない。
そういった民との交流というものは重要だと、私は思っている。それは、彼らの事情を知る一番の機会であるのだから。
「……アーゼス殿下、少しよろしいでしょうか?」
「……なんだ?」
そんなことを思いながら生活をしている私は、時折問題に直面していた。
それは、アーゼス殿下の判断に関することである。彼が出した結論に対して、私が賛同できないということがあるのだ。
そういった時には、アーゼス殿下に意見をぶつけることにしている。いくら最高責任者であっても、彼の判断を妄信するべきではないと思うのだ。
「ハイゼルベルグ山脈の周辺で起こっている魔物の騒ぎについて、調査の必要はないと判断されているようですが、それは何故ですか?」
「……魔物の騒ぎなど、どこにでもあることだろう。一々それを気にして調査を行っていたら、きりがない。無駄なことを省くのは当然だ」
「普通はそうかもしれませんが、今回は違います。三年前に、同じような魔物の動きがあり、その後に多大な被害が出ています。ファーネイル地方は特殊な地方ではありますが、同じ動きである以上、注意は必要かと」
「三年前……?」
私の言葉に、アーゼス殿下は目を丸めていた。
そんな彼に対して、私は探しておいた資料を渡す。そこには、過去にあった出来事が記載されている。それで彼も、納得してくれることだろう。
「……ファーネイル地方は、毎年変化の激しい地方だ」
「もちろん、それはわかっています。しかし、もしもこれで被害が出てしまったら、それは問題ではないでしょうか?」
「それなら、あなたが責任を持て。調査の動員でかかったコストが無駄になるかもしれないのだからな」
「兄上、何を言っているのですか!」
アーゼス殿下の提案に対して、声を出したのはイドラス殿下であった。
その提案が歪なものであるため、抗議してくれているようだ。
その気持ち自体は、私にとってはありがたいものである。ただ今は、私の意見を通してもらえるなら細かいことはどうでも良い。
「イドラス殿下、大丈夫です。私は構いませんから」
「クーレリア嬢……」
「アーゼス殿下、それでは私の好きなようにしても構わないのですよ?」
「……ああ、好きにしろ」
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彼の視線は鋭い。なんというか、私に失敗して欲しいという気持ちが伝わって来る。彼は魔物の動きが、些細なことだと信じ込んでいるのだろう。
しかし私にとっては、それは最早どうでも良いことだ。調査できる時点で、私の目的は達成したといえる。目的は予防であって、予想が当たっているかどうかは関係ないのだ。
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