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32.荒らされていない部屋

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 私とソルーガは、ディルギン氏とともに男爵の部屋に来ていた。
 ディルギン氏が、部屋を見てみたいと言ったからである。

「……なんというか、特に変わった所はなさそうね」
「ああ、普通に人が生活していたという感じだ」

 男爵の部屋は荒らされた様子もなく、とても普通だった。
 ここで事件が起きたとは、信じられないくらいである。
 この様子からして、男爵が誰かと争った結果失踪したということはなさそうだ。もしもそうなたら、いくらなんでも部屋が綺麗すぎる。

「ところで、ディルギン氏、先程のパリドットさんの態度はおかしくありませんでしたか?」
「む?」
「主人が失踪したにしては落ち込んでいませんでしたし、警察に通報することは躊躇っていましたし……なんというか、怪しい気がします」

 そこで、私はディルギン氏に疑問をぶつけてみることにした。
 執事のパリドットさんの態度は、明らかにおかしかったはずだ。もしかしたら、彼は今回の失踪について、何かを知っているのではないだろうか。

「彼が、男爵の失踪を手伝ったという可能性があるのではないでしょうか? 部屋も綺麗ですし、外部からの侵入者に連れ去られたというのは考えにくいはずですし……」
「……あなたはもしかしたら、探偵に向いているかもしれませんね」
「え? いや、それは……」

 色々と語っていた私に対して、ディルギン氏は笑っていた。
 その笑みで、私も気づく。先程から、私は少し落ち着きがない。
 その様子は、少々はしたなかっただろう。なんだか恥ずかしくなってきた。私は、何を言っているのだろうか。

「恥じる必要はありません。これは、興味深い事件ですからね……さて、あなたの質問に答えるとするなら、確かにあの執事は怪しいでしょう」
「……そうですよね」
「ですが、私が考えていることはあなたとは少し異なります。ところで、一体男爵はどうして失踪したのでしょうか?」
「え?」
「その理由がわからないのです。彼が失踪する理由は、特にないはずです。殺人未遂がばれたから失踪したということでしょうか? それなら、その気づいた人物は今何をしているのかがわかりません。もしも男爵がそれを恐れて失踪したなら、警察などに通報するはずです」

 ディルギン氏の言う通り、男爵は何故失踪する必要があったのだろうか。
 部屋の様子からして、連れ去られたとは思えない。それなら、自発的に失踪したということになるのだが、その理由がないのだ。

「ディルギン、一体何を考えているんだ?」
「ソルーガ、結論は急ぐべきではないさ。まずは、他の使用人達に話を聞くことにしよう」
「またお前はそうやってはぐらかす……まあ、いいが」

 ディルギン氏は、何かしらの考えを持っているらしい。
 しかし、それを明かすつもりはないのだろう。なんというか、彼も中々いい性格をしている。
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