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27.気弱な男爵

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「それで、ステイリオ男爵でしたね……彼のことは、よく覚えていますよ」
「よく覚えている……印象に残る人物だったのでしょうか?」
「ええ、そうですね。ただ、目立つタイプという訳でありませんよ。大人しい人でした……どちらかというと、気弱な人でしょうか」

 アルトアは、ゆっくりとステイリオ男爵のことを語り始めた。
 彼女は、男性と関係を持つにあたって、相手のことをよく分析していたはずだ。いざという時のために備えて、自身に危害を及ぼさない人物を関係を持つ。そう心掛けていたことは、彼女自身が語っていたことである。
 そんな彼女の評価は、それなりに参考になるだろう。少なくとも、的外れということはないはずだ。

「彼はよく妻への愚痴を口にしていませんでしたか?」
「ああ、確かに私と奥様を比べて批判していましたね。彼には、奥様への愛情は欠片もなかったと思います。まあ、私と関係を持っている時点で、それはわかりきったことでしょうか?」
「いえ、そうは考えません」
「あら? あなたも中々わかっているのですね。その通りです。愛がありながら、私と関係を持った人もいます。もっとも、どちらも最低であることは変わりないのでしょうが」

 アルトアは、嫌らしい笑みを浮かべていた。
 それは、どの口が言っているのかと思わざるを得ない言葉だった。
 だが、それに一々突っ込んでいたらきりがない。今は彼女を持ち上げて、情報を引き出す場だ。余計なことを言うべきではない。

「話がそれましたね。ステイリオ男爵は、私によく貢いでくれました。男爵でありながら、あなたの夫よりも気前がよかったですよ? ああ、元夫ですか」
「……ふっ」
「なっ……」

 アルトアの言葉に、私は思わず笑みを浮かべていた。
 もしかして、今のは挑発だったのだろうか。もしもそうだとしたら、それはとても浅はかなものだ。
 私の反応が意外だったのか、アルトアは顔を歪めている。少しいい気味だと思ったが、これではこれ以上彼女から何も引き出せないかもしれない。

「アルトア嬢、ありがとうございました。あなたのおかげで、ステイリオ男爵のことがよくわかりました」
「え? もういいのですか?」
「ええ、問題ありません。さて、ソルーガ、セリネア嬢、行きましょうか」

 しかし、ディルギン氏はお礼を言って踵を返し始めた。
 どうやら、もうこれ以上アルトアの話を聞く気はないようだ。それが意外だったのか、彼女も目を丸めている。

「姉貴、行こう」
「え、ええ……」

 ソルーガの言葉に頷いて、私達もその後をついていく。
 よくわからないが、これでアルトアとの話は終わりらしい。もっと色々と引き出せる気がするのだが、これでよかったのだろうか。
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