27 / 50
27.気弱な男爵
しおりを挟む
「それで、ステイリオ男爵でしたね……彼のことは、よく覚えていますよ」
「よく覚えている……印象に残る人物だったのでしょうか?」
「ええ、そうですね。ただ、目立つタイプという訳でありませんよ。大人しい人でした……どちらかというと、気弱な人でしょうか」
アルトアは、ゆっくりとステイリオ男爵のことを語り始めた。
彼女は、男性と関係を持つにあたって、相手のことをよく分析していたはずだ。いざという時のために備えて、自身に危害を及ぼさない人物を関係を持つ。そう心掛けていたことは、彼女自身が語っていたことである。
そんな彼女の評価は、それなりに参考になるだろう。少なくとも、的外れということはないはずだ。
「彼はよく妻への愚痴を口にしていませんでしたか?」
「ああ、確かに私と奥様を比べて批判していましたね。彼には、奥様への愛情は欠片もなかったと思います。まあ、私と関係を持っている時点で、それはわかりきったことでしょうか?」
「いえ、そうは考えません」
「あら? あなたも中々わかっているのですね。その通りです。愛がありながら、私と関係を持った人もいます。もっとも、どちらも最低であることは変わりないのでしょうが」
アルトアは、嫌らしい笑みを浮かべていた。
それは、どの口が言っているのかと思わざるを得ない言葉だった。
だが、それに一々突っ込んでいたらきりがない。今は彼女を持ち上げて、情報を引き出す場だ。余計なことを言うべきではない。
「話がそれましたね。ステイリオ男爵は、私によく貢いでくれました。男爵でありながら、あなたの夫よりも気前がよかったですよ? ああ、元夫ですか」
「……ふっ」
「なっ……」
アルトアの言葉に、私は思わず笑みを浮かべていた。
もしかして、今のは挑発だったのだろうか。もしもそうだとしたら、それはとても浅はかなものだ。
私の反応が意外だったのか、アルトアは顔を歪めている。少しいい気味だと思ったが、これではこれ以上彼女から何も引き出せないかもしれない。
「アルトア嬢、ありがとうございました。あなたのおかげで、ステイリオ男爵のことがよくわかりました」
「え? もういいのですか?」
「ええ、問題ありません。さて、ソルーガ、セリネア嬢、行きましょうか」
しかし、ディルギン氏はお礼を言って踵を返し始めた。
どうやら、もうこれ以上アルトアの話を聞く気はないようだ。それが意外だったのか、彼女も目を丸めている。
「姉貴、行こう」
「え、ええ……」
ソルーガの言葉に頷いて、私達もその後をついていく。
よくわからないが、これでアルトアとの話は終わりらしい。もっと色々と引き出せる気がするのだが、これでよかったのだろうか。
「よく覚えている……印象に残る人物だったのでしょうか?」
「ええ、そうですね。ただ、目立つタイプという訳でありませんよ。大人しい人でした……どちらかというと、気弱な人でしょうか」
アルトアは、ゆっくりとステイリオ男爵のことを語り始めた。
彼女は、男性と関係を持つにあたって、相手のことをよく分析していたはずだ。いざという時のために備えて、自身に危害を及ぼさない人物を関係を持つ。そう心掛けていたことは、彼女自身が語っていたことである。
そんな彼女の評価は、それなりに参考になるだろう。少なくとも、的外れということはないはずだ。
「彼はよく妻への愚痴を口にしていませんでしたか?」
「ああ、確かに私と奥様を比べて批判していましたね。彼には、奥様への愛情は欠片もなかったと思います。まあ、私と関係を持っている時点で、それはわかりきったことでしょうか?」
「いえ、そうは考えません」
「あら? あなたも中々わかっているのですね。その通りです。愛がありながら、私と関係を持った人もいます。もっとも、どちらも最低であることは変わりないのでしょうが」
アルトアは、嫌らしい笑みを浮かべていた。
それは、どの口が言っているのかと思わざるを得ない言葉だった。
だが、それに一々突っ込んでいたらきりがない。今は彼女を持ち上げて、情報を引き出す場だ。余計なことを言うべきではない。
「話がそれましたね。ステイリオ男爵は、私によく貢いでくれました。男爵でありながら、あなたの夫よりも気前がよかったですよ? ああ、元夫ですか」
「……ふっ」
「なっ……」
アルトアの言葉に、私は思わず笑みを浮かべていた。
もしかして、今のは挑発だったのだろうか。もしもそうだとしたら、それはとても浅はかなものだ。
私の反応が意外だったのか、アルトアは顔を歪めている。少しいい気味だと思ったが、これではこれ以上彼女から何も引き出せないかもしれない。
「アルトア嬢、ありがとうございました。あなたのおかげで、ステイリオ男爵のことがよくわかりました」
「え? もういいのですか?」
「ええ、問題ありません。さて、ソルーガ、セリネア嬢、行きましょうか」
しかし、ディルギン氏はお礼を言って踵を返し始めた。
どうやら、もうこれ以上アルトアの話を聞く気はないようだ。それが意外だったのか、彼女も目を丸めている。
「姉貴、行こう」
「え、ええ……」
ソルーガの言葉に頷いて、私達もその後をついていく。
よくわからないが、これでアルトアとの話は終わりらしい。もっと色々と引き出せる気がするのだが、これでよかったのだろうか。
18
お気に入りに追加
1,733
あなたにおすすめの小説
義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!
新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…!
※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります!
※カクヨムにも投稿しています!
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
ミーナとレイノーは婚約関係にあった。しかし、ミーナよりも他の女性に目移りしてしまったレイノーは、ためらうこともなくミーナの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたレイノーであったものの、後に全く同じ言葉をミーナから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」
先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。
「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。
だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。
そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる