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6.裏切られた思い(ウォルリッド視点)
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裏切られた。ラウグス様の身勝手な振る舞いに、僕はそう思った。
かつて彼は、時が来たら決着をつけると言っていたはずだ。しかし、その時というのはいつまで経っても来ない。彼は、それをずっと先送りしているのだ。
その結果、ラウグス様は婚約者のセリネア様と結婚してしまった。
彼は、他の女性と関係を持ちながら、彼女を妻として迎えたのである。
それは、なんと愚かなことだろうか。その愚行に、僕はラウグス様の元に行き、再び話をすることに決めたのである。
「ラウグス様、どういうことですか?」
「ウォルリッド、言ったはずだ。この件は必ず決着をつけると……」
「一体、いつになったら決着をつけるのですか? もう随分と時間が経っていますが……」
「……確かに、お前の言う通り、時間はかかっている。だが、必ず俺の手で決着をつける。だから、それまで待ってくれ」
ラウグス様は、僕に対してそう語った。
だが、僕はもうそれを信じられない。疑念が高まり過ぎて、もう彼の言葉を受け入れられないのだ。
「もう待てません。このこれ以上時間を有するというなら、僕にも考えがあります」
「……どういうことだ?」
「セリネア様に、ラウグス様の行いを伝えます」
「……本気で言っているのか?」
僕の言葉に、ラウグス様は目を細めた。
それは、怒っているように見える。
「……使用人の分際で、図に乗るなよ、ウォルリッド」
「なっ……」
次の瞬間、ラウグス様は冷たい口調で僕にそう言ってきた。
先程までは、少し下手だった彼の態度は、高圧的なものに変化したのである。
その豹変に、僕は少し怯んだ。それに対して、彼は笑う。
「言っておくが、俺が本気になれば、お前なんてどうにでもできるんだぞ?」
「……構いません。別に僕がどうなろうとも、あなたの間違いを正せるというなら……」
「ならば、お前の妹に危害を加える」
「なっ……」
ラウグス様の言葉に、僕は押し黙ることになった。
僕には、妹がいる。オルメアという名前の彼女は、僕と一緒に彼にメイドとして仕えている。
自分のことなどどうでもよかった。主人の間違いを正すために犠牲になれるなら、本能であるとさえいえる。
だが、妹はそうではない。僕の振る舞いによって、彼女の人生が潰される。そんなことはあってはならないことだ。
「お前の妹は、お前と違って従順だぞ? 俺の秘密に気づいていながら、目を瞑っている。できた使用人だ」
「オルメアが……」
「お前は父親から使用人としての教育を受けた。彼女は、母親から教育を受けたのだったな? もしかしたら、その違いなのかもしれないな。まあ、それはどうでもいいことだ……問題は、そんな彼女が、お前のせいで人生を棒に振るということだ」
ラウグス様は、醜悪な笑みを浮かべていた。
以前までの彼は、こんな風な顔をする人ではなかった。浮気という行為は、彼を根本から変えてしまったようである。
僕は、絶望していた。
それは、ラウグス様の変化だけで起こった感情ではない。自分の無力さに、僕は打ちひしがれているのだ。
結局の所、僕は彼に従うしかない。妹を守りたい。それは、使用人としての思いよりも、強いものだったのだ。
セリネア様には、申し訳ないと思う。
だが、それでも僕はラウグス様に逆らえそうにない。彼は本気だ。僕が密告すれば、容赦なく妹に危害を加えるだろう。
その前提がある限り、僕は動けそうにない。家族を人質に取られて、僕は身動きが取れなくなってしまうのだった。
かつて彼は、時が来たら決着をつけると言っていたはずだ。しかし、その時というのはいつまで経っても来ない。彼は、それをずっと先送りしているのだ。
その結果、ラウグス様は婚約者のセリネア様と結婚してしまった。
彼は、他の女性と関係を持ちながら、彼女を妻として迎えたのである。
それは、なんと愚かなことだろうか。その愚行に、僕はラウグス様の元に行き、再び話をすることに決めたのである。
「ラウグス様、どういうことですか?」
「ウォルリッド、言ったはずだ。この件は必ず決着をつけると……」
「一体、いつになったら決着をつけるのですか? もう随分と時間が経っていますが……」
「……確かに、お前の言う通り、時間はかかっている。だが、必ず俺の手で決着をつける。だから、それまで待ってくれ」
ラウグス様は、僕に対してそう語った。
だが、僕はもうそれを信じられない。疑念が高まり過ぎて、もう彼の言葉を受け入れられないのだ。
「もう待てません。このこれ以上時間を有するというなら、僕にも考えがあります」
「……どういうことだ?」
「セリネア様に、ラウグス様の行いを伝えます」
「……本気で言っているのか?」
僕の言葉に、ラウグス様は目を細めた。
それは、怒っているように見える。
「……使用人の分際で、図に乗るなよ、ウォルリッド」
「なっ……」
次の瞬間、ラウグス様は冷たい口調で僕にそう言ってきた。
先程までは、少し下手だった彼の態度は、高圧的なものに変化したのである。
その豹変に、僕は少し怯んだ。それに対して、彼は笑う。
「言っておくが、俺が本気になれば、お前なんてどうにでもできるんだぞ?」
「……構いません。別に僕がどうなろうとも、あなたの間違いを正せるというなら……」
「ならば、お前の妹に危害を加える」
「なっ……」
ラウグス様の言葉に、僕は押し黙ることになった。
僕には、妹がいる。オルメアという名前の彼女は、僕と一緒に彼にメイドとして仕えている。
自分のことなどどうでもよかった。主人の間違いを正すために犠牲になれるなら、本能であるとさえいえる。
だが、妹はそうではない。僕の振る舞いによって、彼女の人生が潰される。そんなことはあってはならないことだ。
「お前の妹は、お前と違って従順だぞ? 俺の秘密に気づいていながら、目を瞑っている。できた使用人だ」
「オルメアが……」
「お前は父親から使用人としての教育を受けた。彼女は、母親から教育を受けたのだったな? もしかしたら、その違いなのかもしれないな。まあ、それはどうでもいいことだ……問題は、そんな彼女が、お前のせいで人生を棒に振るということだ」
ラウグス様は、醜悪な笑みを浮かべていた。
以前までの彼は、こんな風な顔をする人ではなかった。浮気という行為は、彼を根本から変えてしまったようである。
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それは、ラウグス様の変化だけで起こった感情ではない。自分の無力さに、僕は打ちひしがれているのだ。
結局の所、僕は彼に従うしかない。妹を守りたい。それは、使用人としての思いよりも、強いものだったのだ。
セリネア様には、申し訳ないと思う。
だが、それでも僕はラウグス様に逆らえそうにない。彼は本気だ。僕が密告すれば、容赦なく妹に危害を加えるだろう。
その前提がある限り、僕は動けそうにない。家族を人質に取られて、僕は身動きが取れなくなってしまうのだった。
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