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12.以前よりも

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「アルネリア嬢、何か困ったことなどはないか?」
「ありません」

 私は、ラゼルト殿下の言葉に力強い返答を返していた。
 少々辛辣かもしれないが、彼にはこれくらいしないとならない。一緒に過ごしてわかったことではあるのだが、優しく言うと彼は遠慮しているとか、そういう風に判断してしまうのだ。

「そうか……ああ、今日は雨だから廊下も滑るかもしれない」
「わかっていますし、王城の廊下は綺麗なものですよ。使用人の方々が、きちんとしてくれていますから」
「もちろん、皆の働きを信じていない訳ではない。しかし、それでも限界というものがあるだろう。各々仕事もある故に、追いつかないこともあるかもしれない」
「心配し過ぎですよ、ラゼルト殿下は……」

 私と女神ラルネシア様のことを割り切ったはずのラゼルト殿下は、何故か以前にも増して過保護になっていた。
 その変化というものは、私にとってはよくわからないものである。心配性が緩和するならまだしも、どうして悪化するのだろうか。

「そもそも、私が部屋から出ようとする度に来るのはやめていただけませんか?」
「そういう訳にはいかない。あなたはカルノード王国から預かった大切なお姫様だ」
「私は公爵家の令嬢ですよ?」
「俺にとっては、お姫様だということだ。どうか、守らせてもらいたい」

 ラゼルト殿下という人は、もしかしたら普通にずれているのかもしれない。私は段々と、そのように思うようになってきた。
 もちろん、丁重に扱ってもらっていることは嬉しく思う。だが、流石に過保護過ぎると、一言言いたくなってしまう。いや既に、一言以上言ってしまっている訳なのだが。

「守ってもらえると期待はしています。ですが、それは有事の際の話です。今はその時ではないと思いますが」
「日常の中でも、危険は潜んでいるものだ」
「そうかもしれませんが、そんなことを言い出したら何もできなくなってしまいますよ」
「ふむ……」

 私の言葉に、ラゼルト殿下は不服そうにしていた。
 彼としても、理解していないという訳ではないのだろう。ただ納得はしていないという感じだ。
 しかしこれに関しては、割り切ってもらうしかない。こんなことをしていると、ラゼルト殿下の王太子としての活動にも、影響を出しかねない。

「とにかく、これからは節度を考えて守ってください。あくまでも、常識的な範囲内でお願いします」
「仕方ないか……」
「嬉しくは思っていますからね。本当にありがたいし、心強く思っています。ありがとうございますね、ラゼルト殿下」
「いや、あなたを守ることは俺の使命であり責務だ。それに、私情でもある。美しいあなたをこれからも守っていきたい。それが俺の望みだ」
「ラゼルト殿下……」

 ラゼルト殿下は、私の目を真っ直ぐに見て言葉を発してくれていた。
 その言葉に、私は笑顔を浮かべる。彼には色々と気になる点もあるが、それでも総合するととても頼りになる人だ。

 そんな彼となら、きっと上手くやっていけるだろう。
 二つの国がこれからも平和に暮らせるように、ラゼルト殿下と手を取り合って頑張っていこう。私はそう思いながら、ラゼルト殿下と笑い合うのだった。


END
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