上 下
10 / 12

10.故郷を思い

しおりを挟む
ラフェイン王国での暮らしは、概ね順調である。
 女神ラルネシア様とそっくり、私のその容姿というものは、やはりかなり効果があるものであるらしい。

「ふう……」
嬢、ここにいたのか」
「ラゼルト殿下……」
「どうかしたのか? 浮かない顔をしているようだが」

 そこに訪ねて来たのは、ラゼルト殿下であった。
 彼は私に、良い笑顔を向けてきている。その笑顔からは、彼の女神への敬意のようなものが伝わって来る。

「いえ、少し実家のことを思い出していたのです」
「……そういえば、こちらはカルノード王国がある方角か」
「ええ、見える訳ではありませんけれど、それでもなんだか故郷が感じられるような気がして」
「……そうか」

 私の言葉に、ラゼルト殿下は少し面食らったような表情をしていた。
 流石に、方角だけで故郷を感じるなんておかしいと思われただろうか。しかしこれに関しては、そう思うのだから仕方ない。
 どうやら私は、少々ホームシックになってしまっているようだ。感傷に浸り過ぎている。それは悪いことではないかもしれないが、少なくともラゼルト殿下に話すべきではなかっただろう。

「アルネリア嬢は家族と仲が良かったのか?」
「え? ええ、そうですね。悪くはなかったと思いますが……」
「妹がいるのだったな? 婚約が入れ替わったということだが……」
「あ、はい……」

 ラゼルト殿下は、私にとって少々痛い所を突いてきた。
 イルフェリーナのことは、当然ラフェイン王国側には伝わっていない。こちらの国を怖く思って、婚約を嫌がっていたなんて言えるはずはないだろう。
 結果として私が嫁ぐことになって良かったとは思っているが、できれば触れたくない話題である。私は思わず、目をそらしてしまう。

「何かあったのだろうか? そういえば、その辺りについては詳しく聞いていなかった」
「それはまあ、その……妹は私よりも年下である訳です」
「……それは当然だな。妹なのだから」
「ええ、ですからこの大役に対してかなり重荷を感じていたというか、あまり自信がなかったようなのです」
「ほう……」
「だから私が、変わったんです。少なくとも妹よりは、一日の長がありますから」

 私は、少々脚色しながらラゼルト殿下に事情を伝えた。
 彼は少し、訝し気な顔をしている。なんとなくではあるが、彼も私の言葉を全て信じている訳ではないような気がする。何か隠しているということくらいは、悟られているかもしれない。
 とはいえ、流石に詳しくはわかっていないだろう。特に問題はないと思うのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

処理中です...