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6.わからない理由

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 天蓋付きのベッドの上から、私はゆっくりと体を起こす。
 とりあえずこの部屋に通してもらった訳ではあるが、やはりこの国の私への歓迎ムードというものは、おかしかったように思える。
 彼らの喜び方というものは、私が来て和平というものが盤石になったから、という風には思えなかった。言うならばラゼルト殿下が私に見惚れていたかのような、喜び方だったのだ。

「なんだか怖いわね……」

 とても歓迎されているのだが、私は恐怖を覚えていた。そこまで歓迎される理由というものが、わからないからだ。
 この部屋に案内してくれたメイドも、なんだか私のことを見て笑みを浮かべていた。ラゼルト殿下だけではなく、この国の人達は私に何かを感じているようだ。しかし、その理由がまったく持ってわからないため、私の中で事態が上手く飲み込めていない。

「ともあれ、行くしかないのよね……」

 少しの休息の後、私は改めて国王様と謁見することになっている。
 とりあえず気持ちを切り替えなければならない。わからないことは、考えないようにして、自分がやるべきことを果たすとしよう。

「……失礼する」
「え?」
「ラゼルトだ。入っても良いだろうか」
「あ、はい」

 私がまた改めて決意していると、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
 どうやらラゼルト殿下が、訪ねて来たらしい。私は急いで身だしなみを整えて立ち上がり、彼を受け入れる体勢を整える。
 しかし、何故ラゼルト殿下が訪ねて来たのだろうか。その理由がわからない。わからなくても、私は受け入れざるを得ないのだが。

「すまないな、休んでいる最中に」
「いえ、構いません。何かご用ですか?」
「ああ、紅茶とお菓子を持って来たのだ。落ち着くためには、そういったものも必要だと思ってな」
「そうですか。それはありがとうございます」

 ラゼルト殿下とともに、部屋の中にはメイドさんが入って来ていた。
 彼女はテーブルの上に慣れた手つきで、紅茶とお菓子を並べていく。ラゼルト殿下のものもあるようだ。二人でお茶、ということだろうか。
 それはそれで緊張するのだが、紅茶はありがたい。それを飲むだけでも、きっと心が落ち着いてくれるだろう。

「父上との謁見までの時間は、少し伸ばしてもらった。具体的には明日だ」
「え?」
「アルネリア嬢は、長旅で疲れている。そんな中で、謁見などということは酷だと思った。父上も受け入れてくれたよ」

 ラゼルト殿下の言葉に、私は固まっていた。
 国王様との謁見が明日になった。それは信じられないことである。伸ばしてもらったにしても、伸ばし過ぎだ。それは本当に、大丈夫なのだろうか。
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