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25.帰って来た公爵

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 私は、バルートとマディード様とともにとある人物と対峙していた。
 その人物とは、フライグ・セレント公爵。三年前に失踪した私の夫である。

「……兄上、まずはお久し振りだと言っておきましょうか?」
「……ああ」

 マディード様の言葉に、フライグ様はゆっくりと頷いた。
 その表情は暗い。流石に、ここに帰って来たことに対して、それなりの気まずさは感じているようだ。

「今更、何をしに帰って来たのか……聞いてもよろしいでしょうか?」
「かつて私は、過ちを犯した……それを償うために、ここに戻って来たのだ」
「償うため、ですか……」

 フライグ様は、恐る恐るといった風に呟いた。
 過ちを償うために戻って来た。その彼の主張に、私はゆっくりと拳を握る。

 色々と言いたいことがあった。
 しかし、それは我慢する。ここで怒りに任せて何かを言っても、それは無駄だと思ったからだ。

「……バルート」
「……」
「すまなかった……許してくれ。私は、お前と向き合うことが怖かったのだ」
「……」
「だが、この三年間、私はその考えを改めた。もう一度やり直したいのだ……」

 フライグ様は、バルートにそう語りかけた。
 それに対して、バルートは黙っている。その表情は、とても固い。

「……もう一度やり直したい? そんな都合のいいことがよく言えますね」
「バルート……」
「あなたは、自分がどれだけ身勝手なことをしたのか、わかっていないんですか? そんなことが言えると本当に思っているんですか?」

 フライグ様に向かって、バルートは激昂していた。
 その怒りは、はっきりと伝わってくる。普段大人しい彼がここまで声を荒げるなんて、とても珍しいことだ。

「許されないことをしたのはわかっている。すまなかった……だが、私はまたお前と手を取り合いたいのだ」
「話になりませんね……」

 フライグ様の言葉に、バルートはゆっくりと首を振った。
 それは、呆れているようにも見える。

「……あなたがいない三年間、色々と大変なことがありました。そんな僕を支えてくれたのは、ここにいるお母様です」
「む……」
「彼女に対して、あなたは一向に謝りませんね。いいえ、それだけではありません。あなたは、彼女と結婚してから失踪した。その事実が、今となっては僕にとって、とても気に入らない事実なのです」

 バルートの言葉に、私は静かに息を呑んだ。
 彼が怒っているのも呆れているのも、私のためなのだろう。それが、とても嬉しかった。
 そのため、少しだけにやけてしまう。それが、この場に相応しくないということはわかっていても、どうしても表情が緩んでしまうのである。

「あなたの勝手で、お母様はどれだけ振り回されたことか……そんなあなたを、僕は許しません。もう一度やり直したいなんて、ふざけないでください!」
「バ、バルート……」

 バルートの怒りに、フライグ様は明らかに怯んでいた。
 一応、彼も自分が悪いということはよく理解しているのだろう。その表情からは、それが伺える。
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