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18.一つの提案

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「バルート、あなたに一つ提案があるの」
「提案?」

 バルートの言葉を聞いて、私は覚悟が決まった。
 いや、そうではないのかもしれない。私はきっと、初めから心のどこかでそうしたいと思っていたのだろう。

 それは、何故なのだろうか。正直、自分でもよくわからない。
 でも、私はその自分の気持ちに素直に従おうと思った。理屈なんて必要はないのだろう。私はただ、自分が思った道を進むだけだ。

「あなたは、親戚の家に行かなければならないと思っているようだけれど、そうではないわ」
「でも、現状を考えるとそうなるしかないじゃないか」
「あなたの目の前にいるのが、誰だかわかっているの?」
「……僕の継母にあたる人」
「ええ、そうよ。私は、セレント公爵夫人なの。あなたがどう思っているかはわからないけれど、私はあなたの母親なのよ」

 私の言葉に、バルートは目を見開いていた。
 それは恐らく、母親という部分に引っかかったからではないだろう。彼が、この状況でそんなことを気にする子ではないということは、もうわかっている。

「……そんなの駄目だよ。あなたは、このセレント公爵家に関係がある人じゃない……お父様がいなくなったのに、あなたが残るなんて変な話だ」
「……あなたは、優しいのね。でも、大丈夫よ。私にとってここに残ることには、メリットがあることなのだもの」
「違うよ、それは……だって、あなたは僕のためにここに残ろうとしている。そんなのは駄目に決まっている」

 バルートは、首を振って私の提案を否定していた。
 それが少し嬉しかった。彼が私のことを思ってそう言ってくれていることが伝わってきたからだ。

 もしかしたら、私は心のどこかでそれに気づいていたのかもしれない。
 こんなにも優しい子を不幸にしたくはない。そんな気持ちが、働いたのではないだろうか。

「まあ、あなたがそんなに嫌だというなら、私も出て行くことはやぶさかではないけれど……」
「い、嫌という訳ではないよ」
「そうなの? あなたには随分と嫌われていると思っていたけれど……」
「それは……」

 私の言葉に、バルートはわかりやすく落ち込んだ。
 この子は、こんなにも感情が豊かな子だっただろうか。その様子を見て、私は結構呑気にそんなことを思っていた。

「ずっと謝らないといけないと思っていたんだ……あなたは、何も悪いことをしていないのに、あんなにも冷たい態度を取って……ごめんなさい」
「そんなこと気にしなくていいのよ。あなたの立場なら、誰だってそうなるわ」

 バルートの態度は、正直結構厳しいものだった。
 しかし、それで彼を責めようとは思わない。
 彼の立場で、私をすぐに受け入れるなんて無理な話だ。それは、最初からわかっていたことである。
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