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15.向き合う時
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私は、マディード様とともにバルートの部屋の前まで来ていた。
私達は、彼とぶつかり合うことに決めた。悩んでいても仕方ないので、すぐに実行に移そう。そういう流れになったのである。
「さて、行きましょうか……」
「ええ……」
マディード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
彼は、その後ゆっくりと戸を叩く。
「バルート、マディードだ」
「叔父様……なんですか?」
「少し、話したいことがあるんだ……エファーナさんも一緒だ」
「そうですか……わかりました。入ってください」
マディード様の言葉に、バルートはいつも通りの事務的な声で返答した。
その返答の印象は、今までとは少し違った。それは恐らく、お祖父様の言葉を聞いたからだろう。
彼のこの態度は、自分を守るためのものなのだ。
この厳しい状況に対抗するために、彼は足掻いている。必死に強がっているのだ。
それは、考えてみれば悲しいことである。
今、彼は泣いていい。そのはずなのに、こんな風に強がっているというのは、どうにも悲しいことである。
「失礼する」
「……失礼します」
私とマディード様は、ゆっくりと部屋の中に入っていった。
すると、バルートの顔が見えてくる。その表情は硬い。それも考えてみれば、おかしな話だ。
彼の表情には、感情がない。
思い返してみれば、最初に私を母親だと認めないと言っていた彼は、もう少し感情がその顔に現れていた。
それがなくなった時点で、私は気付くべきだったのかもしれない。彼が本当は、深い悲しみに包まれているということに。
「それで、何の用なんですか?」
「……君に聞きたいことがある。今の状況をどう思っている?」
「どう思っている?」
マディード様の質問に、バルートは驚いたような表情をした。
それは、そうだろう。こんな質問は、普通されたくないものである。それをしてくるなんて、彼も思ってはいなかっただろう。
だが、私達はそうすることが必要だと思っていた。
彼が本当は何を思っているか。それをまず、私達は知らなければならないのである。
「……別に、どうも思っていませんよ」
「どうも思っていない?」
「ええ、僕は叔父様や公爵家の意向に従うだけです」
バルートは、そのような回答を返してきた。
それは、明らかに偽りの回答である。この状況で、そんな言葉が返って来るはずはない。
「バルート、僕達は君の本当の気持ちが知りたいんだ。どうか、素直に答えてくれないか?」
「……これが、僕の素直な気持ちです」
「そんなはずはないだろう……もっと言いたいことがあるはずだ」
「何度言われても、答えは変わりません……」
マディード様に対して、バルートは壁を張っていた。
これ以上踏み込んで欲しくない。それが、彼の言葉の端々から感じられる。
しかし、ここで止まってしまえば、それは以前までと変わらない。
私達は、一歩を踏み出す必要があるのだ。
私達は、彼とぶつかり合うことに決めた。悩んでいても仕方ないので、すぐに実行に移そう。そういう流れになったのである。
「さて、行きましょうか……」
「ええ……」
マディード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
彼は、その後ゆっくりと戸を叩く。
「バルート、マディードだ」
「叔父様……なんですか?」
「少し、話したいことがあるんだ……エファーナさんも一緒だ」
「そうですか……わかりました。入ってください」
マディード様の言葉に、バルートはいつも通りの事務的な声で返答した。
その返答の印象は、今までとは少し違った。それは恐らく、お祖父様の言葉を聞いたからだろう。
彼のこの態度は、自分を守るためのものなのだ。
この厳しい状況に対抗するために、彼は足掻いている。必死に強がっているのだ。
それは、考えてみれば悲しいことである。
今、彼は泣いていい。そのはずなのに、こんな風に強がっているというのは、どうにも悲しいことである。
「失礼する」
「……失礼します」
私とマディード様は、ゆっくりと部屋の中に入っていった。
すると、バルートの顔が見えてくる。その表情は硬い。それも考えてみれば、おかしな話だ。
彼の表情には、感情がない。
思い返してみれば、最初に私を母親だと認めないと言っていた彼は、もう少し感情がその顔に現れていた。
それがなくなった時点で、私は気付くべきだったのかもしれない。彼が本当は、深い悲しみに包まれているということに。
「それで、何の用なんですか?」
「……君に聞きたいことがある。今の状況をどう思っている?」
「どう思っている?」
マディード様の質問に、バルートは驚いたような表情をした。
それは、そうだろう。こんな質問は、普通されたくないものである。それをしてくるなんて、彼も思ってはいなかっただろう。
だが、私達はそうすることが必要だと思っていた。
彼が本当は何を思っているか。それをまず、私達は知らなければならないのである。
「……別に、どうも思っていませんよ」
「どうも思っていない?」
「ええ、僕は叔父様や公爵家の意向に従うだけです」
バルートは、そのような回答を返してきた。
それは、明らかに偽りの回答である。この状況で、そんな言葉が返って来るはずはない。
「バルート、僕達は君の本当の気持ちが知りたいんだ。どうか、素直に答えてくれないか?」
「……これが、僕の素直な気持ちです」
「そんなはずはないだろう……もっと言いたいことがあるはずだ」
「何度言われても、答えは変わりません……」
マディード様に対して、バルートは壁を張っていた。
これ以上踏み込んで欲しくない。それが、彼の言葉の端々から感じられる。
しかし、ここで止まってしまえば、それは以前までと変わらない。
私達は、一歩を踏み出す必要があるのだ。
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