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12.曾祖父として

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 私とマディード様は、お祖父様とともにバルートの部屋の前まで来ていた。
 その部屋の戸を、マディード様がゆっくりと叩く。彼は、少し緊張したような面持ちだ。

「バルート。マディードだ」
「はい、叔父様。何かご用でしょうか?」
「エファーナさんのお祖父様が訪ねて来たのだ。その人が、君に是非挨拶がしたいと言っているのだが、入っても構わないだろうか?」
「……もしかして、こちらに、いらっしゃっているのですか?」
「ああ、そうだ」

 バルートは、私のお祖父様が自分の部屋の前まで来ているという事実に驚いているようだった。
 それは、そうだろう。普通に考えれば、自室に挨拶には来ない。
 だが、今回お祖父様は、それを望んでいた。ありのままの彼と話がしたいそうなのだ。

「弟君よ。少し変わってもらえるか?」
「は、はい……」
「バルート君、わしはアルバルドという」
「は、はい……」
「緊張することはない。わしはもう引退した身だ。貴族のあれこれに口を出す立場ではない。わしはただ、新しくできた曾孫と曾祖父として話がしたいというだけじゃ」
「……わかりました。どうぞ、入ってください」
「うむ、失礼する」

 バルートの言葉に頷きながら、お祖父様は部屋の中に入っていった。
 少々迷ったが、私とマディード様はその場に留まることにした。お祖父様の背中が、そうするように促しているような気がしたからだ。

「……大丈夫なのでしょうか?」
「わかりません……ただ、あの方ならバルートの心を開くことができるかもしれません。不思議な雰囲気の人ですから」
「……ええ、そうですね」

 私は、少し心配だった。
 お祖父様は、確かに不思議な人ではある。人を惹きつける力がある人なのだ。

 だが、それでもバルートの心を開けるかはわからない。私は、そう思っていた。
 彼は、かなり難しい子だ。当時の私は、そう考えていたからである。

「……なんでしょう。すごく緊張しますね」
「ええ……まあ、僕達にできるのは待っていることだけですからね」

 私達は、かなり緊張していた。
 中の様子は、まったくわからない。何が起こっているかわからないというのは、どうにももどかしいものである。

「うむ、それではな……」
「あっ……」

 お祖父様は、ゆっくりと部屋から出てきた。
 その表情は、笑顔である。その口調からも、中での会話が悪いものではないように思えた。

「お祖父様、どうでしたか?」
「ああ、まあ、大体のことはわかった」

 私の質問に、お祖父様はゆっくりと頷いた。
 それ程長い時間の会話だったという訳ではないはずである。だが、お祖父様はバルートという子のことを、理解したようだった。
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