1 / 26
1.公爵家の後妻
しおりを挟む
私がセレント公爵家夫人となったのは、今から三年前のことだ。
公爵家の当主であるフライグ様は、早逝してしまった妻の後妻として、私を迎え入れた。
「私には、息子がいるんだ。今年で九歳になる……名前は、バルートという」
「バルート……君、ですか」
「気難しい子供だ。色々と苦労するかもしれないが、よろしく頼む」
フライグ様には、一人息子のバルート君がいた。
亡き奥様との間に生まれた彼のことを語る彼は、どこか遠い目をしていたような気がする。
「君は、子供が好きかい? 正直に答えて欲しい」
「子供ですか……実の所、あまり得意ではありません」
「そうか……」
当時の私は、子供が苦手だった。
別に嫌いという訳ではないが、どのように接していいかわからなかったのである。
そんな私の答えに、フライグ様は苦笑いをした。
今思うと、その笑みには憎しみが湧いてくる。彼は、一体どのような意図であのような笑みを浮かべたのだろうか。
「まあ、私も子供は得意ではないから、気持ちはわかる。しかし、なんとか頑張って欲しい」
「はい、頑張りたいとは思っています」
フライグ様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
彼の一人息子バルート君との関係について、私は頑張るつもりだった。
後妻と子供の関係というのは、難しいものである。これから、色々と彼との関係を考えていく必要があるだろう。その時の私は、そのように思っていた。
だが、まさかその時の彼の言葉に、あのような意味があったとはまるで思っていなかった。
本当に、彼はどうしようもない人間である。思い返してみると、益々そう思えてくる。
◇◇◇
「私の名前は、エファーナというの。あなたの名前を教えてもらっていい?」
「えっと……僕の名前は、バルートです」
バルートと最初に出会ったのは、フライグ様との婚約が決まってからすぐのことだった。
彼は、私のことを警戒していた。父親が急に連れてきた母親になる女性。その人物に、警戒しないなどという方が、無理があるだろう。
そのような反応をすることは、予想できていたことである。そのため、私もそこでくじけたりすることはなかった。
「これから、私はあなたのお父様……フライグ様の妻になるの」
「はい、知っています」
バルートは、私の言葉にすぐにそう言い返してきた。
その声色は、少し怒っているように聞こえた。何に怒っているか、それは考えるまでもないことだろう。
「……あなたが、お父様と結婚するとか、そういうことは僕にとってどうでもいいことです」
「えっと……」
「でも、僕はあなたのことをお母様とは思いません。それだけは、覚えておいてください」
「あ、バルート君……」
バルートは、そう言って駆けていってしまった。
もちろん、彼が私のことを認めないということは、予想していたことである。
だが、実際にその言葉を向けられるというのは、中々に厳しいものだった。
実際に振るわれる感情に、怯んでしまったのだ。
「……はあ、やっぱり難しいものなのね」
あの時の私は、まだ何もわかっていなかった。思い返してみて、私はそのように感じている。
もっと、バルートに寄り添う必要があったのだ。自分のことだけを考えるのではなく、彼のことを考えるべきだったのである。
公爵家の当主であるフライグ様は、早逝してしまった妻の後妻として、私を迎え入れた。
「私には、息子がいるんだ。今年で九歳になる……名前は、バルートという」
「バルート……君、ですか」
「気難しい子供だ。色々と苦労するかもしれないが、よろしく頼む」
フライグ様には、一人息子のバルート君がいた。
亡き奥様との間に生まれた彼のことを語る彼は、どこか遠い目をしていたような気がする。
「君は、子供が好きかい? 正直に答えて欲しい」
「子供ですか……実の所、あまり得意ではありません」
「そうか……」
当時の私は、子供が苦手だった。
別に嫌いという訳ではないが、どのように接していいかわからなかったのである。
そんな私の答えに、フライグ様は苦笑いをした。
今思うと、その笑みには憎しみが湧いてくる。彼は、一体どのような意図であのような笑みを浮かべたのだろうか。
「まあ、私も子供は得意ではないから、気持ちはわかる。しかし、なんとか頑張って欲しい」
「はい、頑張りたいとは思っています」
フライグ様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
彼の一人息子バルート君との関係について、私は頑張るつもりだった。
後妻と子供の関係というのは、難しいものである。これから、色々と彼との関係を考えていく必要があるだろう。その時の私は、そのように思っていた。
だが、まさかその時の彼の言葉に、あのような意味があったとはまるで思っていなかった。
本当に、彼はどうしようもない人間である。思い返してみると、益々そう思えてくる。
◇◇◇
「私の名前は、エファーナというの。あなたの名前を教えてもらっていい?」
「えっと……僕の名前は、バルートです」
バルートと最初に出会ったのは、フライグ様との婚約が決まってからすぐのことだった。
彼は、私のことを警戒していた。父親が急に連れてきた母親になる女性。その人物に、警戒しないなどという方が、無理があるだろう。
そのような反応をすることは、予想できていたことである。そのため、私もそこでくじけたりすることはなかった。
「これから、私はあなたのお父様……フライグ様の妻になるの」
「はい、知っています」
バルートは、私の言葉にすぐにそう言い返してきた。
その声色は、少し怒っているように聞こえた。何に怒っているか、それは考えるまでもないことだろう。
「……あなたが、お父様と結婚するとか、そういうことは僕にとってどうでもいいことです」
「えっと……」
「でも、僕はあなたのことをお母様とは思いません。それだけは、覚えておいてください」
「あ、バルート君……」
バルートは、そう言って駆けていってしまった。
もちろん、彼が私のことを認めないということは、予想していたことである。
だが、実際にその言葉を向けられるというのは、中々に厳しいものだった。
実際に振るわれる感情に、怯んでしまったのだ。
「……はあ、やっぱり難しいものなのね」
あの時の私は、まだ何もわかっていなかった。思い返してみて、私はそのように感じている。
もっと、バルートに寄り添う必要があったのだ。自分のことだけを考えるのではなく、彼のことを考えるべきだったのである。
0
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ボロボロに傷ついた令嬢は初恋の彼の心に刻まれた
ミカン♬
恋愛
10歳の時に初恋のセルリアン王子を暗殺者から庇って傷ついたアリシアは、王家が責任を持ってセルリアンの婚約者とする約束であったが、幼馴染を溺愛するセルリアンは承知しなかった。
やがて婚約の話は消えてアリシアに残ったのは傷物令嬢という不名誉な二つ名だけだった。
ボロボロに傷ついていくアリシアを同情しつつ何も出来ないセルリアンは冷酷王子とよばれ、幼馴染のナターシャと婚約を果たすが互いに憂いを隠せないのであった。
一方、王家の陰謀に気づいたアリシアは密かに復讐を決心したのだった。
2024.01.05 あけおめです!後日談を追加しました。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。
フワっと設定です。他サイトにも投稿中です。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました
メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。
「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。
この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。
仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。
そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。
「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる