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50.会場から離れて

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「……ふう」

 お茶会が本格的に始まってからしばらくして、私は人の波に揉まれていた。
 アドルグお兄様と一緒に行った舞踏会でも経験したことではあるが、その人混みというものは私にとっては結構辛いものであった。
 ヴェルード公爵家の妾の子ということもあって、私はそれなりに注目されていたような気がする。それは被害妄想かもしれないが、とにかく私は疲れてしまった。

 少し休んだ方が良いということで、私はお茶会の会場から少し離れさせてもらっている。
 一緒にロヴェリオ殿下も来てくれる予定だったが、途中で彼は引き止められてしまった。王族である彼に声をかける人は多くて、とりあえず私だけでここまで来たのである。
 それは、仕方ないことだといえるだろう。そもそもロヴェリオ殿下は私を気遣って一緒に来ようとしてくれていただけだろうし。

「……こんな所で何をしているんだ?」
「え?」

 そんな私は、人から声をかけられて少し驚いた。
 こんな所に人が来るなんて、思ってもいなかったからだ。しかもなんだか、口調が高圧的である。私一人で、きちんと対応できる人だろうか。

「あれ……? あ、あなたは……ディトナス様」
「ああ、僕だとも」

 私がゆっくりと振り向くと、そこにはディトナス様がいた。
 まさか声の主が、私をこの屋敷に招いた張本人であるなんて驚きだ。彼はグラスを持っている。その中に入っているのは、オレンジジュースだろうか。

「使用人から聞いたぞ? こそこそと会場から抜け出していったそうだなぁ?」
「え? えっと……」
「逃げ出したという訳か。まったく持って、みっともない奴だ」

 ディトナス様は、私のことを睨みつけていた。その視線から感じる明らかな敵意に、私は汗を流す。
 どうやら彼は、かつて舞踏会で私を詰めたあの二人の令嬢と同じような人であるらしい。妾の子である私のことを、とても見下しているのだ。

「気に食わないんだよ。下賤な平民の血が流れているお前みたいな奴が、このドルイトン侯爵家の敷地にいるのが……」
「わ、私は……」
「さっさとここから出て行け。この愚か者がっ!」
「なっ!」

 次の瞬間、ディトナス様はグラスの中身をこちらに向かってかけてこようとした。
 いくらなんでも、それは許されない行為であるだろう。しかし幸いなことに、それが私にかかることはなかった。間に割って入ってきた人がいたのだ。

「……え?」
「お前は……」

 私はてっきり、お姉様方やロヴェリオ殿下が駆けつけてきてくれたのかと思った。
 しかしそうではない。そこにいるのは、私が知らない人だったのだ。
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