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全てが終わってから、私はゼナート様とともにお墓参りに来ていた。
そこに眠っているのは、王家に連なる者であるザルフィルド様だ。私にとっては、冒険者のゼレックさんであるが。
「田舎町の英雄か、ザルフィルド様にとって、これ以上ない程の名誉だな……」
「この町に暮らす人々は、皆彼に感謝していると思います」
「この墓を見れば、それはわかるさ。あの方は、これ程まで多くの者に慕われているのだな……」
ゼレックさんは、その素性が不明だった。
しかしながら、彼を慕う者は多い。それは英雄になる前からそうだった。
酒場で冒険の話をする彼を囲んで、皆でお酒を飲む。幼い頃には、よく見ていた光景だ。
「さて、これで俺の目的も達成することができた……そろそろ王家に戻る時か」
「すぐに帰られるのですか?」
「ああ、とりあえず一度戻る必要はあるだろう。色々と報告しなければならないことが山積みだ」
「……そうですよね」
ゼナート様が王家に帰る。その事実には寂しさを覚えてしまう。
思えば、彼には助けられてばかりだった。そんな尊敬できる人と出会えて学べたことは、本当に素晴らしいことだといえるだろう。
「しかしながらその前にあなたに伝えたいことがある」
「はい。なんですか?」
「実の所、俺はあなたに惹かれている。妻に迎えたいとそう思っているのだ。あなたを王家に迎えたい」
「……え?」
そこでゼナート様は、驚くべきことをさらっと言ってきた。
それによって、私は固まる。理解が追いつかず、言葉が中々出てこない。
「な、何を……」
「言った通りだ。俺は妻に迎えるなら、あなたのような人がいいと思っている」
「そ、それは……」
ゼナート様の言葉は、正直嬉しかった。
私も少なからず、結婚するなら彼のような人がいいと思っていたからだ。
しかしながら、それを受け入れられるかどうかは微妙な所である。私には、とある懸念があるのだ。
「……ありがたいことだとは思います。すごく嬉しいです。でも、私はあなたの妻には相応しくありません」
「ほう? それは何故?」
「私は所詮、田舎の弱小貴族です。そのような私に、王家の一員としての役目が果たせるとは思いません」
私は、王家に名を連ねるに相応しい人間ではない。そうなれる程の力も経験もないのである。
故に私は、この提案を受け入れないことにした。本当にゼナート様のことを思うなら、こうする方がいいはずである。
「なるほど、やはりあなたはそう思うか……それなら俺も、決断しなければならないか」
「……え?」
私の言葉に、ゼナート様は笑みを浮かべていた。
それはなんというか、何かしらの考えがありそうな笑みだった。
◇◇◇
「でも驚きました。まさかゼナート様が、こちらに合わせるなんて思っていませんでした」
「いや、俺も長年思っていたのさ。王家の風潮というものはどうにも肌に合わないとな」
ゼナート様は、私の夫になった。
しかしそれは、私が王家に名を連ねたという訳ではない。彼の方が、エボンス男爵家に来てくれたのだ。
「そもそも、あなたの夫になる時点でそちら側に合わせるということは決まっていた。エボンス男爵家には、あなたしか子供がいないのだからな」
「ええ、よく考えてみればそうですよね。でも、それならどうしてあんな質問を?」
「あなたには申し訳ないことだが、試したのだ。あなたが、王家の地位に執着する人なのかどうかを見極めたかった。結果は、俺が思っていた通りだったが」
ゼナート様は、あの時の言葉の種明かしをしてくれた。
冷静に考えてみると、色々とおかしい提案ではあった。それを理解できない程に、私は動揺していたということなのだろう。
しかしそれでも、ゼナート様が望んでいるような答えを返すことはできたようだ。それは何より幸いなことだったといえるだろう。
「俺はここであなたと一緒に人々の平穏を守っていきたい。ザルフィルド様……いや、ゼレック様のようにな」
「ゼナート様……それなら、私はそんなあなたを支えましょう」
「ああ、よろしく頼む」
結局の所、私には王家や貴族なんてものは荷が重いのだろう。言い方は悪いかもしれないが、田舎の弱小貴族くらいが性に合っているのだ。
故にこれからも、弱小貴族としての役目を果たしていこう。私は夫ともに、この平穏な田舎を守っていくのだ。
そこに眠っているのは、王家に連なる者であるザルフィルド様だ。私にとっては、冒険者のゼレックさんであるが。
「田舎町の英雄か、ザルフィルド様にとって、これ以上ない程の名誉だな……」
「この町に暮らす人々は、皆彼に感謝していると思います」
「この墓を見れば、それはわかるさ。あの方は、これ程まで多くの者に慕われているのだな……」
ゼレックさんは、その素性が不明だった。
しかしながら、彼を慕う者は多い。それは英雄になる前からそうだった。
酒場で冒険の話をする彼を囲んで、皆でお酒を飲む。幼い頃には、よく見ていた光景だ。
「さて、これで俺の目的も達成することができた……そろそろ王家に戻る時か」
「すぐに帰られるのですか?」
「ああ、とりあえず一度戻る必要はあるだろう。色々と報告しなければならないことが山積みだ」
「……そうですよね」
ゼナート様が王家に帰る。その事実には寂しさを覚えてしまう。
思えば、彼には助けられてばかりだった。そんな尊敬できる人と出会えて学べたことは、本当に素晴らしいことだといえるだろう。
「しかしながらその前にあなたに伝えたいことがある」
「はい。なんですか?」
「実の所、俺はあなたに惹かれている。妻に迎えたいとそう思っているのだ。あなたを王家に迎えたい」
「……え?」
そこでゼナート様は、驚くべきことをさらっと言ってきた。
それによって、私は固まる。理解が追いつかず、言葉が中々出てこない。
「な、何を……」
「言った通りだ。俺は妻に迎えるなら、あなたのような人がいいと思っている」
「そ、それは……」
ゼナート様の言葉は、正直嬉しかった。
私も少なからず、結婚するなら彼のような人がいいと思っていたからだ。
しかしながら、それを受け入れられるかどうかは微妙な所である。私には、とある懸念があるのだ。
「……ありがたいことだとは思います。すごく嬉しいです。でも、私はあなたの妻には相応しくありません」
「ほう? それは何故?」
「私は所詮、田舎の弱小貴族です。そのような私に、王家の一員としての役目が果たせるとは思いません」
私は、王家に名を連ねるに相応しい人間ではない。そうなれる程の力も経験もないのである。
故に私は、この提案を受け入れないことにした。本当にゼナート様のことを思うなら、こうする方がいいはずである。
「なるほど、やはりあなたはそう思うか……それなら俺も、決断しなければならないか」
「……え?」
私の言葉に、ゼナート様は笑みを浮かべていた。
それはなんというか、何かしらの考えがありそうな笑みだった。
◇◇◇
「でも驚きました。まさかゼナート様が、こちらに合わせるなんて思っていませんでした」
「いや、俺も長年思っていたのさ。王家の風潮というものはどうにも肌に合わないとな」
ゼナート様は、私の夫になった。
しかしそれは、私が王家に名を連ねたという訳ではない。彼の方が、エボンス男爵家に来てくれたのだ。
「そもそも、あなたの夫になる時点でそちら側に合わせるということは決まっていた。エボンス男爵家には、あなたしか子供がいないのだからな」
「ええ、よく考えてみればそうですよね。でも、それならどうしてあんな質問を?」
「あなたには申し訳ないことだが、試したのだ。あなたが、王家の地位に執着する人なのかどうかを見極めたかった。結果は、俺が思っていた通りだったが」
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冷静に考えてみると、色々とおかしい提案ではあった。それを理解できない程に、私は動揺していたということなのだろう。
しかしそれでも、ゼナート様が望んでいるような答えを返すことはできたようだ。それは何より幸いなことだったといえるだろう。
「俺はここであなたと一緒に人々の平穏を守っていきたい。ザルフィルド様……いや、ゼレック様のようにな」
「ゼナート様……それなら、私はそんなあなたを支えましょう」
「ああ、よろしく頼む」
結局の所、私には王家や貴族なんてものは荷が重いのだろう。言い方は悪いかもしれないが、田舎の弱小貴族くらいが性に合っているのだ。
故にこれからも、弱小貴族としての役目を果たしていこう。私は夫ともに、この平穏な田舎を守っていくのだ。
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