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バンレド伯爵家からの連絡は早かった。
大切な息子であるドルナス様が失踪したから、それは当然のことではある。手紙の内容を知るまでは、私はそう思っていた。
「今でも信じられません。この手紙は、いくらなんでも淡白過ぎます」
「淡白であるという点に関しては、俺も同意しよう。ルルーナ嬢……しかしながら、その理由がわからないという訳でもない。詰まる所、ドルナスはバンレド伯爵家にとっても厄介な存在だったということだ」
「そ、そうなのでしょうか……」
「親族であるからといって信用できる訳ではない。特に、俺達王族や貴族の間ではそれが顕著だ。故にこの手紙も珍しいものではない。もっとも、あなた方にとってはそうではないだろうがな……」
ゼナート様は、手紙に対して特に違和感を覚えていないようだった。
しかしこれが珍しいものでないと断言できるとは、王族や貴族の世界というのは、なんと過酷なものだろうか。
弱小貴族故、そういった問題にあまり触れたことがない私にとって、それはそれなりに衝撃的なことだった。
「もちろん、そうではない場合でもこのような手紙になる可能性がある。ドルナスの行動は、普通に考えれば無礼の極みだ。それを考慮して、礼節を弁えているのかもしれない」
「ああ、そういう場合もあり得るのですね……」
「どちらにしても、こちらは何も案ずる必要はない。ずっしりと構えておけばいいのだ」
極めて冷静に、ゼナート様はそんなことを言ってくれた。
改めて、彼という存在がいてくれて心強いと思う。
そして同時に、自分の不甲斐なさを実感する。なんというか、私はこういうことに慣れてなさ過ぎる。これからのためにも、ゼナート様からしっかり学んでおいた方がいいかもしれない。
「さて、手紙によるとバンレド伯爵家の長男であるダグラスがこちらを訪ねて来るらしいな」
「ええ、そのようですね。そこで、これからのことを直接話し合いたいと……」
「その内容次第ではあるが、ここからはかなり忙しくなりそうだな……普通に考えれば、ドルナスの捜索だが」
「捜索……」
「本心であっても体裁であっても、探索はすると考えていいだろう。いい機会だ。あのカナプト山に巣くう賊どもを一網打尽にするべきかもしれないな」
「それは……」
ゼナート様の言う通り、カナプト山の山賊を討伐できるならその方がいい。伯爵家が協力してくれるなら、それもきっと可能だろう。
ただ、それによってエボンス男爵家の領地が揺れるのが心配だ。安全対策など、しっかりと考えておいた方がいいかもしれない。
大切な息子であるドルナス様が失踪したから、それは当然のことではある。手紙の内容を知るまでは、私はそう思っていた。
「今でも信じられません。この手紙は、いくらなんでも淡白過ぎます」
「淡白であるという点に関しては、俺も同意しよう。ルルーナ嬢……しかしながら、その理由がわからないという訳でもない。詰まる所、ドルナスはバンレド伯爵家にとっても厄介な存在だったということだ」
「そ、そうなのでしょうか……」
「親族であるからといって信用できる訳ではない。特に、俺達王族や貴族の間ではそれが顕著だ。故にこの手紙も珍しいものではない。もっとも、あなた方にとってはそうではないだろうがな……」
ゼナート様は、手紙に対して特に違和感を覚えていないようだった。
しかしこれが珍しいものでないと断言できるとは、王族や貴族の世界というのは、なんと過酷なものだろうか。
弱小貴族故、そういった問題にあまり触れたことがない私にとって、それはそれなりに衝撃的なことだった。
「もちろん、そうではない場合でもこのような手紙になる可能性がある。ドルナスの行動は、普通に考えれば無礼の極みだ。それを考慮して、礼節を弁えているのかもしれない」
「ああ、そういう場合もあり得るのですね……」
「どちらにしても、こちらは何も案ずる必要はない。ずっしりと構えておけばいいのだ」
極めて冷静に、ゼナート様はそんなことを言ってくれた。
改めて、彼という存在がいてくれて心強いと思う。
そして同時に、自分の不甲斐なさを実感する。なんというか、私はこういうことに慣れてなさ過ぎる。これからのためにも、ゼナート様からしっかり学んでおいた方がいいかもしれない。
「さて、手紙によるとバンレド伯爵家の長男であるダグラスがこちらを訪ねて来るらしいな」
「ええ、そのようですね。そこで、これからのことを直接話し合いたいと……」
「その内容次第ではあるが、ここからはかなり忙しくなりそうだな……普通に考えれば、ドルナスの捜索だが」
「捜索……」
「本心であっても体裁であっても、探索はすると考えていいだろう。いい機会だ。あのカナプト山に巣くう賊どもを一網打尽にするべきかもしれないな」
「それは……」
ゼナート様の言う通り、カナプト山の山賊を討伐できるならその方がいい。伯爵家が協力してくれるなら、それもきっと可能だろう。
ただ、それによってエボンス男爵家の領地が揺れるのが心配だ。安全対策など、しっかりと考えておいた方がいいかもしれない。
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