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「ドルナス様は、こちらで何をしようとしているのですか?」
「先程の言葉を聞いていなかったのか? 山狩りだよ」
「山狩り、その言葉に対する解釈は色々とあるように思えますが?」

 ドルナス様は、私に対して笑みを浮かべていた。
 とても爽やかとはいえないその笑みに、私は冷や汗をかく。正直言って、嫌いなタイプだ。その下卑た笑みは、私を不安にさせてくる。
 とはいえ、ここで怯んではいけない。私はしっかりと使命を果たさなければならないのだ。

「カナプト山に跋扈する山賊や魔物を狩りつくすつもりだ。それだけの兵力は用意してきた」
「……それは、領主の許可を取ってのことなのでしょうか?」
「ふん。田舎の弱小貴族の許可など、一々必要あるものか」

 私の質問に対して、ドルナス様は予想していた通りの答えを返してきた。
 やはり彼は、お父様に話を通していないのだ。これは明らかな越権行為である。

「貴族であっても、貴族でなくとも、そこを統治する者達に話を通しておくのは当然の摂理であると、私は思いますが?」
「ルルーナ嬢、あなたはどうやら立場をわきまえられていないようだな? 僕が何者であるかわかっているのか?」
「何が言いたいのですか?」

 ドルナス様は、そこで口の端を釣り上げた。
 こちらを見下し嘲笑するような表情に、私は嫌悪感を覚える。やはり、この人は苦手だ。話していて、気分が悪くなってくる。

「バンレド伯爵家のことを、何も知らないという訳か。やはり田舎の弱小貴族は違うな。立場を弁えることができていない。お前は、僕に意見できる立場ではないんだよ」

 ドルナス様は、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
 それに対して私は固まる。後退することは、彼に対して負けを認めたことになると思ってしまったからだ。
 しかし、それは間違いだったかもしれない。彼が私の顎を引いた時、私の頭にはそんな考えが過ってきた。

「権力というものを知らないのか? 言っておくが、エボンス男爵家は貴族なんていえないぞ? 力関係でいえば、地方の商人の方が上かもしれない」
「何をっ……」
「金も持っておらず、貧相な土地しかない田舎の貴族に価値なんてないんだよ。だから、誰も味方しない。例え令嬢をどう扱ったとしても、それはなかったことになる」

 そこで私は、寒気を覚えた。
 ドルナス様の視線が、体を舐め回すように見ていることに気が付いたからだ。

「ついて来い。権力の差というものを教えてやる」
「なっ……!」

 腕を掴まれた私は、彼に強引に引っ張られた。
 このまま彼は、私を馬車に連れ込むつもりなのだろう。それを理解して、私の思考は加速する。

 当然恐怖はあったが、今私が考えていることは別のことだった。
 酒場にいる人達の怒りに満ち溢れた視線が、ドルナス様に集まっている。これは非常に、まずい状況だ。

 目の前の男にはもちろん報いを受けて欲しいと思っていたが、それによって領地の人々が不利益を被るなんてことがあっていいはずはない。
 だから私は、口を開こうとした。私は大丈夫だから、何もしなくていいと。
 しかし私は、その言葉を口にすることができなかった。なぜなら私を引っ張る力が急に弱まり、ドルナス様が一人で馬車の方に向かって行っているのに気が付いたからだ。
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