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 私は、レオード様とともに馬車に乗っていた。
 国王様との話も終わり、彼は帰国するらしい。私は、屋敷で下ろしてもらい、今日はこれでお別れなのだ。

「さて、これからのことを、少し話させてもらっていいですか?」
「ええ、もちろんです」

 馬車の中でレオード様からかけられた言葉に、私はゆっくりと頷く。
 これからの話は、とても重要なことである。私も、是非知りたいと思っていた所だ。
 もちろん、ある程度の話は既に聞いている。だが、こうして二人で話すことで、もっと詳しく理解することができるはずだ。

「あなたには近い内に、リオネルダ王国に来てもらいます」
「……それは、すぐに結婚するということではないのですよね?」
「ええ、そういう訳ではありません。結婚する前に、あなたのことを我が国の国民に知ってもらいたいのです」

 レオード様の考えは、とてもよく理解できた。
 私が、いきなり彼と結婚したら、リオネルダ王国の国民は混乱するだろう。それを避けるために、一度私という存在に慣らしておくことは、とても大切なことかもしれない。

「あなたには、私の婚約者として、リオネルダ王国で過ごしてもらい、国民が人間についてある程度理解してから、結婚の話を進める。そういう流れにしたいのです」
「はい……具体的には、どういう方法で理解を得るつもりなのですか?」
「特別なことはするつもりはありません。あなたが姿を見せたり、国民と交流したりすることで、理解してもらいたいと思っています」

 レオード様は特別なことではないと言っているが、私の役目はとても重要である。
 私の言動一つで、リオネルダ王国の獣人達は人間を判断するのだ。迂闊なことはできないだろう。

「特に、身構えないでください。あなたに関しては、色々と考えなくても大丈夫だと思いますよ」
「え?」
「あなたは素晴らしい人間です。いつも通りのあなたであれば、国民の理解を得ることは簡単だと私は思っています」
「レオード様……」

 少し不安になっているのを察してくれたのか、レオード様は優しい言葉をかけてくれた。
 その言葉は、とても嬉しい。心の底から、温かい気持ちになってくる。彼の言葉は、私に勇気を与えてくれるものであるようだ。

「ありがとうございます。でも、私は身構えるつもりです。私はいわば、国の代表です。身構えなければならない立場だと思っています」
「ミレイアさん……」
「もちろん、自然体でもいいのでしょう。ですが、私は常にその心を忘れてはならないと思うのです」
「なるほど……やはり、あなたは素晴らしい人ですね」

 私は、国の代表。私が迂闊なことをすれば、それが人間の評価になる。そのことを忘れてはならないだろう。
 その意思は、彼の優しい言葉を受けても変わらなかった。変えてはならないと思ったのである。
 一国の代表というのは、そういうことだろう。身構え過ぎてもいけないとは思うが、その意識だけは忘れてはならないだろう。
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