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 私は、ゆっくりと戸を開けて、父の執務室に入っていく。
 一応、戸は叩いたが、話しに夢中になっていた二人はまったく気づいてくれなかった。そのため、了承を得ずに入ることにしたのだ。

「二人とも、落ち着いてください。外まで聞こえていますよ」
「む……?」
「お姉様?」

 急に入ってきた私に、二人は驚いていた。
 だが、すぐに状況は理解したようである。二人とも、割と大きな声で話している自覚があったのだろう。

「ミレイア、それはすまなかった。確かに、私達もかなり熱を入れて喋っていた自覚はある」
「ええ、確かにそうですわね……」
「獣人の国に嫁ぐ件で揉めていたようですね」
「ああ、その件でメーリアが少しごねているのだ」

 私が話を切り出そうとすると、お父様が少し含みのある言い方をした。
 そういう言い方をすれば、メーリアがどういう反応をするのかなどわかっているはずだ。それなのに、こんな言い方をするとは、お父様もまだまだ子供である。

「お父様、私がどうして、反対しているか……」
「メーリア、少し落ち着いて。お父様も、余計なことは言わなくていいから」
「お姉様……」
「む……」

 私は、とりあえず二人を宥めた。
 この二人は、少し感情的になることが多い気がする。そうやって言い合う姿を見ていると、やはり親子なのだと実感することができる。

「実は先程、第二王子のグルゼン様から婚約破棄を告げられました」
「なっ……!」
「ええっ!?」

 私が本題に入ると、二人は予想通り驚いた。
 ここまでは、想定通りである。問題は、この後だ。
 私は、二人にある提案をしようとしている。その提案を、二人が受け入れてくれるかが重要だ。

「グルゼン様は、私の妹が獣人に嫁ぐことで獣人が身内になるのが嫌だと言っていました」
「第二王子が? そんな馬鹿な……」
「お父様、やはり獣人と結びつくなんて、普通の人は嫌なのです」
「今から撤回することは、恐らく望めないと思います。もう彼は婚約破棄を決めていたようですから」
「そうか……」

 婚約破棄の内容に、お父様は苦い顔をしていた。
 一方、妹は少し喜んでいる。そういう差別意識を持っていることを喜ぶことは、あまりいいことではない。

「そこで、私は提案したいのです」
「提案? なんだ?」
「私をメーリアの代わりに獣人の国に嫁がせて頂けませんか?」
「何……?」
「お、お姉様? 正気ですか?」

 そこで、私は自分が考えていたことを口にした。
 私が、獣人の国に嫁ぐ。それが、一番丸く収まる気がするのだ。
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