上 下
17 / 19

17

しおりを挟む
 私は、王城に来ていた。聖なる力を使えるようになったという報告をしたら、是非見せて欲しいと呼ばれたのだ。
 少し時間があったので、私は王城の廊下を歩いていた。目的地は、ベランダである。少し、風に当たりたくなったのだ。

「あっ……」
「おや……」

 その道中、私は見知った人に出会った。
 第四王子のケルド様が、私の目の前に現れたのだ。

「エルーナ様、お久し振りですね」
「お久し振りです、ケルド様」
「聖なる力を使えるようになったそうですね。おめでとうございます。これで、あなたはきっと地位を与えられるでしょう。そうすれば、あなたへの差別は消えていくはずです」

 ケルド様は、笑顔で私にそう言ってくれた。
 その言葉は、ありがたいものだ。彼は、本当に私のことを思ってくれている。いや、私だけではないだろう。差別される全ての人に、彼の思いは向けられているのだ。
 そんな立派な彼とともに戦いたい。私は、今そう思っている。その思いを、はっきりと告げておくべきだろう。

「ありがとうございます……ケルド様、もし私に地位が与えられたら、あなたの取り組みを手伝わせてください」
「僕の取り組みを?」
「ええ、私は、私のような境遇にあった者を救いたいと思っています。だから、あなたと力を合わせたいのです。目的は同じなのですから、その方がいいはずでしょう?」
「それは……ありがたいことですが、本当にいいんですか?」
「ええ、もちろんです」

 ケルド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 すると、彼は笑顔を見せてくれる。喜んでもらえたなら、私も嬉しく思う。

「エルーナ、こんな所にいたのか?」
「え?」
「なっ……」

 そんな私の耳に、とある人物の声が聞こえてきた。
 その声は、できれば聞きたくなかった声だ。第三王子のクードム様。この王城において、最も会いたくなかった人が、私の前に現れたのである。
 何故かわからないが、彼は笑っていた。こんな笑みは、今まで見たことがない。なんだか、少し気味が悪い。一体、クードム様は何を考えているのだろうか。

「私に……何か用ですか?」
「俺はどうやら、お前への評価を誤っていたようだ。お前は、素晴らしい人間だった。それを認めよう」
「……なんですって?」

 クードム様の言葉に、私は困惑した。
 彼は、何を言っているのだろうか。正直、まったくわからない。彼の言葉は、私の中にまったく入ってこなかった。

「つまり、俺はお前との再婚約を望んでいる。婚約破棄、あれは誤りだった。これからは、お前のことを大切にすると約束しよう」
「クードム様……」

 非常に身勝手なその主張が、だんだんと頭の中に入ってきた。
 要するに、彼は私が選ばれし者だとわかって、言い寄ってきているのだ。力を持っている私と婚約することは利益になる。そう思っているのだろう。
 許せない。素直にそう思った。特別な存在だったから、手の平を返す。それは、私が一番嫌いなことである。
 ここは、一度言わせてもらうべきだろう。勇気を出して、彼を糾弾するのだ。

「ふざけるな」
「え?」
「何?」
「勝手なことを言うな。彼女に、あなたなんかは相応しくない」

 しかし、声を出したのは私ではなかった。
 ケルド様が、静かに怒りを込めながら、言葉を放っていたのだ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?

新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

window
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。  元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。  出ていくのは、貴方の方ですわよ? ※カクヨム様でも公開しております。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

処理中です...