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 私は、第四王子のケルド様と話をしていた。
 ケルド様は、顔の痣で差別をしない。そういう珍しい人なのである。
 彼は、自分の兄もそうだと思っていたようだ。だが、クードム様は、むしろ一番質が悪い人である。どうやら、ケルド様は兄のことをよくわかっていないようだ。

「兄は……あなたにどのようなことを? あ、言いたくないなら、言わなくでも構いませんよ?」
「……彼は、私のことを醜い傷ありと言ってきました。ずっと、ひどいことを言われて……」
「そうですか……申し訳ありません」
「ケルド様が、悪い訳ではありませんよ」
「それでも、謝らせてください」

 私の話を聞いて、ケルド様は明らかに落ち込んでいた。
 身内がひどいことを言ったことは、彼の中では相当重いことであるようだ。
 しかし、私はケルド様に謝って欲しいとは思っていない。身内が何をしようが、それは個人的なことである。彼が謝る必要などないのだ。
 むしろ、謝られたらどうしたらいいかわからなくなる。彼は悪くないのだから、私の心はちっとも晴れない。逆に、曇ってしまうくらいである。

「本当に気にしないでください。こういうことには、慣れていますから」
「慣れているなんて、そんな……」
「本当に慣れていますよ。もう辛いとか、悲しいとか、そういうことは思いません。何度も言われていると、案外聞き流せるようになるんですよ?」

 私は、ケルド様に嘘をついた。
 本当は、罵倒されると悲しいし辛い。何度経験しても、慣れることなんてない。
 だけど、目の前の優しい人の罪悪感を払うには、こうやって笑顔を見せることしかないだろう。私は大丈夫、そう思わせることが、今できる最善の手であるはずだ。

「……すみませんでした」
「ケルド様? だから、謝るのは――」
「そうではありません。これは、兄の行いに対する謝罪ではないのです。僕の行いに対する謝罪です」
「え?」

 尚も謝ってくるケルド様だったが、それは先程の謝罪とは異なるものらしい。
 彼の表情は、本当に先程までとは違う。彼は、何かを決意したかのような真剣な顔をしているのだ。

「僕は今まで、何もしてきませんでした。あなたを差別する人々に嫌悪感を覚えつつも、その認識を変えるために動くだとか、そういう行いをしてこなかったのです」
「それは……」
「そんな僕の行いを、謝罪します。そして、誓います。あなたのような人々に対する差別をなくしてみせると」
「ケルド様……」

 ケルド様の言葉に、私は驚いていた。
 彼が謝ったことは、当たり前のことだ。私を差別している人が嫌でも、何かしようなどとは思わない。精々、その場で注意するくらいだろう。
 私は、それですらありがたいと思っている。それなのに、彼はもっと大きなことを成し遂げようとしているのだ。
 心の奥から、熱いものが湧き出てくる。彼の思いが伝わってきて、今まで体験したことがないような気持ちが私の心を奮わせてくる。

「お願いしてもいいんですか……?」
「……はい」
「簡単なことでは……ありませんよ?」
「それでも、僕はやります。もう、あなたのように苦しんでいる人から、目をそらしません」

 私は、ケルド様の言葉に笑顔になった。先程の作り笑いとは違う本当の笑顔だ。
 きっと、彼なら成し遂げてくる。この国を変えてくれる。私は、そんな期待を抱くのだった。
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