2 / 19
2
しおりを挟む
私は、王城の廊下で第四王子のケルド様と出会った。
言葉から考えると、彼は私を心配してくれているようだ。端から見ても、私は落ち込んでいるように見えたのだろうか。それは、少し恥ずかしい。
「あなたは確か、エルーナ・ストライムさんでしたよね?」
「あ、はい……」
「兄……クードムの婚約者という認識は、間違っていませんか?」
「あ、えっと……」
その質問に、私は少しだけ言葉を詰まらせた。
私は、クードム様の婚約者だった。だが、それはもう先程までの話だ。今の私は、もう彼の婚約者とは言えない。
ただ、それを言っていいのかがわからなかった。まだ正式に発表されたことではないので、言うのを躊躇ってしまったのだ。
「何かあったようですね?」
「その……」
「……少しだけ、話を聞かせてもらえますか? よろしければ、こちらでどうでしょう?」
ケルド様は、近くの部屋の戸を開けながらそう言ってきた。どうやら、私の躊躇いによって、何かあったことを察したらしい。
私は、ゆっくりと頷いた。彼になら、話してもいいと思ったのである。
彼は、信頼できる人だ。私を見て、特に表情を変えない彼は、この痣に嫌悪感を抱かない彼は、信じていいと思ったのである。
「さて、とりあえず、あなたとクードムの関係について、聞いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい……実は、彼から婚約破棄を言い渡されて――」
「婚約破棄ですって!」
向き合って座って、私達は話を始めた。
婚約破棄という言葉を聞いて、ケルド様はとても驚いている。やはり、婚約破棄というのは一大事であるようだ。
「あ、すみません。動揺してしまいました」
「いえ、大丈夫です」
「兄は、一体どうして婚約破棄などということを?」
「その……彼は、私のこの顔が気に入らなかったらしくて……」
「……その痣のことですか」
私の言葉に、ケルド様は少し悲しそうな顔をした。
その表情だけで、私にはわかる。彼は、私がこの痣によって蔑まれていることを悲しく思ってくれているのだ。
こういう人は、非常に珍しい。私が痣によって差別されることを快く思わない人は、この国も一定数はいるのだ。
そういう人と会うと、嬉しくなる。自分の存在を認められる気がするからだ。
「兄も……そういう偏見を持っている人だったのですね」
「ええ……知らなかったのですか?」
「情けないことに、そうなのです。どうやら、僕は兄のことをよく理解していなかったようですね」
ケルド様は、自嘲気味な笑みを浮かべた。兄のことをよく知らなかった自分を、情けなく思っているのだろう。
もしかしたら、王族の兄弟は結びつきが薄いのかもしれない。一応、次の国王を争う中であるから、そこまで仲良くできないのだろうか。
言葉から考えると、彼は私を心配してくれているようだ。端から見ても、私は落ち込んでいるように見えたのだろうか。それは、少し恥ずかしい。
「あなたは確か、エルーナ・ストライムさんでしたよね?」
「あ、はい……」
「兄……クードムの婚約者という認識は、間違っていませんか?」
「あ、えっと……」
その質問に、私は少しだけ言葉を詰まらせた。
私は、クードム様の婚約者だった。だが、それはもう先程までの話だ。今の私は、もう彼の婚約者とは言えない。
ただ、それを言っていいのかがわからなかった。まだ正式に発表されたことではないので、言うのを躊躇ってしまったのだ。
「何かあったようですね?」
「その……」
「……少しだけ、話を聞かせてもらえますか? よろしければ、こちらでどうでしょう?」
ケルド様は、近くの部屋の戸を開けながらそう言ってきた。どうやら、私の躊躇いによって、何かあったことを察したらしい。
私は、ゆっくりと頷いた。彼になら、話してもいいと思ったのである。
彼は、信頼できる人だ。私を見て、特に表情を変えない彼は、この痣に嫌悪感を抱かない彼は、信じていいと思ったのである。
「さて、とりあえず、あなたとクードムの関係について、聞いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい……実は、彼から婚約破棄を言い渡されて――」
「婚約破棄ですって!」
向き合って座って、私達は話を始めた。
婚約破棄という言葉を聞いて、ケルド様はとても驚いている。やはり、婚約破棄というのは一大事であるようだ。
「あ、すみません。動揺してしまいました」
「いえ、大丈夫です」
「兄は、一体どうして婚約破棄などということを?」
「その……彼は、私のこの顔が気に入らなかったらしくて……」
「……その痣のことですか」
私の言葉に、ケルド様は少し悲しそうな顔をした。
その表情だけで、私にはわかる。彼は、私がこの痣によって蔑まれていることを悲しく思ってくれているのだ。
こういう人は、非常に珍しい。私が痣によって差別されることを快く思わない人は、この国も一定数はいるのだ。
そういう人と会うと、嬉しくなる。自分の存在を認められる気がするからだ。
「兄も……そういう偏見を持っている人だったのですね」
「ええ……知らなかったのですか?」
「情けないことに、そうなのです。どうやら、僕は兄のことをよく理解していなかったようですね」
ケルド様は、自嘲気味な笑みを浮かべた。兄のことをよく知らなかった自分を、情けなく思っているのだろう。
もしかしたら、王族の兄弟は結びつきが薄いのかもしれない。一応、次の国王を争う中であるから、そこまで仲良くできないのだろうか。
36
お気に入りに追加
1,627
あなたにおすすめの小説
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?
新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」
window
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」
アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。
「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」
アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。
気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。
私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。
家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。
そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。
しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。
※カクヨムにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる