上 下
31 / 46

31.父の迷い

しおりを挟む
 少し話がしたい。そう言われて私はお父様の部屋に来ていた。
 このタイミングで呼び出されたということは、十中八九ランドラ様関連の話がしたいということだろう。
 ただ、お父様は中々話を切り出してこない。紅茶を飲みながら、ただ黙っているだけだ。

「……お父様、それで今日はどのような用件で私を呼び出したのですか?」
「あ、いや……」

 このままでは埒が明かないと思った私は、お父様にそう問いかけた。
 話がしたいと呼び出したのだから、話をして欲しい。それを話すかどうか悩まれたら、こちらも困ってしまう。

「……ランドラのことは、聞いているかな?」
「ええ、聞きました。どうやら大変なことになっているようですね」
「ああ、大変なことになっている。無論、こうなることはわかっていたことではあるのだが……」

 お父様は、重々しい口調でそう呟いた。
 やはりお父様は、今回の件でかなり参っているようだ。親友の息子の窮地、そんな彼からの手紙、お父様の心は大いに揺れているだろう。

「この手紙を見てもらいたい」
「手紙? ああ、ランドラ様からの手紙ですか?」
「いや、そうではない……」
「これは……」

 そこで、私はお父様から一通の手紙を渡された。
 ランドラ様からもらった手紙を見せてくれるのかと思ったが、どうやらそれはアルガール侯爵からの手紙のようだ。
 とりあえず、私はその手紙を読んでみる。私が読んでもいいのかと一瞬思ったが、お父様がいいと言ったのだから特に問題はないだろう。

「……アルガール侯爵は、この事態を想定していたのですね」
「ああ、そのようだ」
「侯爵として正しい判断を、ですか……」
「最期の最期まで、彼は誇り高き男だった……」
「そうですね……」

 手紙には、ランドラ様が助けを求めてきても侯爵として正しい判断をするようにと記されていた。
 自分のことは気にせず、判断して欲しい。それが侯爵の望みであるようだ。

「だが、この手紙を見れば見る程、私はランドラのことを助けたいと思ってしまう。彼のことを思い出してしまうのだ」
「お父様……」
「もちろん、助けるべきではないということはわかっている。しかし、私の心は……」
「……お父様、少し聞かせたいことがあります」
「む?」

 お父様は、かなり迷っているらしい。
 意見するのは、とりあえずお父様の中で意見がまとまってからの方がいいと思っていた。
 だが、これ程に迷っているというなら、この段階でとある情報を明かしておくべきであるように思える。
 それは、私がアルガール侯爵から聞いた最後の言葉だ。それを今伝えることには、深い意味がある気がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

第一夫人が何もしないので、第二夫人候補の私は逃げ出したい

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリドリー・アップルは、ソドム・ゴーリキー公爵と婚約することになった。彼との結婚が成立すれば、第二夫人という立場になる。 しかし、第一夫人であるミリアーヌは子作りもしなければ、夫人としての仕事はメイド達に押し付けていた。あまりにも何もせず、我が儘だけは通し、リドリーにも被害が及んでしまう。 ソドムもミリアーヌを叱責することはしなかった為に、リドリーは婚約破棄をしてほしいと申し出る。だが、そんなことは許されるはずもなく……リドリーの婚約破棄に向けた活動は続いていく。 そんな時、リドリーの前には救世主とも呼べる相手が現れることになり……。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

魔がさしたから浮気したと言うのなら、私に魔がさしても文句を言わないでくださいね?

新野乃花(大舟)
恋愛
しきりに魔がさしたという言葉を使い、自分の浮気を正当化していた騎士のリルド。そんな彼の婚約者だったクレアはある日、その言葉をそのままリルドに対してお返ししてみようと考えたのだった。

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

鈴宮(すずみや)
恋愛
 公爵令嬢ポラリスはある日、婚約者である王太子シリウスと、親友スピカの浮気現場を目撃してしまう。信じていた二人からの裏切りにショックを受け、その場から逃げ出すポラリス。思いの丈を叫んでいると、その現場をクラスメイトで留学生のバベルに目撃されてしまった。  その後、開き直ったように、人前でイチャイチャするようになったシリウスとスピカ。当然、婚約は破棄されるものと思っていたポラリスだったが、シリウスが口にしたのはあまりにも身勝手な要求だった――――。

処理中です...