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15.二通の手紙
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私は、お父様から受け取った手紙に目を通す。こちらは、私の弟であるソルダスからの手紙だ。
彼は現在、王都にある学校に通っている。遠く離れた地で勉学に励む弟からの近況の報告は、姉としてしっかりと読みたいものだ。
今回の手紙には、アルガール侯爵の葬儀に参加できなかったことに関する悔しさなどが記されている。彼も、侯爵には良くしてもらっていたのでできればこちらに戻ってきたかったのだろう。
「……私は読み終わったが、そちらはどうかな?」
「はい、読み終わりました」
「それでは、交換しよう」
「はい」
私とお父様は、それぞれの持っている手紙を交換した。
もう片方の手紙は、お母様からの手紙だ。お母様も現在は王都にいる。ソルダスが通っている学校の教師を務めているのだ。
お母様は、非常に聡明で優秀な人物であった。王立の学校の教師として白羽の矢が立つ程に貴重な人材なのである。
「やっぱり、王都で暮らしているというのは色々ともどかしいものですね」
「うむ……だが、仕方ないことだ。そう簡単に帰れる距離でもないし、立場もあるからな」
お母様もソルダスと同じように、帰ることができなかったことを悔やんでいるようだ。
王都で暮らしている二人は、そう簡単にこちらに帰ってくることができない。特にお母様は色々と難しい立場であるため、今回は帰らないという判断をしたらしい。
ただ、本心では帰りたかったと思っていたのだろう。手紙からでもそれはわかる。
「王立の学校……ふむ、まあ、その教師に選ばれたということは素晴らしいことであるはずなのだがな」
「実際に、お母様の評判はいいのでしょう?」
「ああ、立派に務めを果たしているらしい。とはいえ、彼女個人にとって、それがよかったことなのかはわからないな。結局の所、断りにくい頼みを受け入れただけなのかもしれない」
「それは……」
お母様が教師になりたかったのかどうかは、わからない。
ただ、王立の学校からそういった頼みがきてそれを断ることができるかというと、かなり微妙な所だ。
「そろそろ国から妻を返してもらうべきか……」
「まあ、まずはお母様に聞いてみてもいいのではありませんか?」
「ふむ……それで侯爵夫人よりも教師を取られたら、少し悲しいかもしれないな」
「お父様は、お母様に選ばれたいのですか?」
「そうなのだろうか……いや、少ししおらしくなっているのかもしれないな」
お父様は、ゆっくりと空を見上げた。
アルガール侯爵は亡くなって、私も程なくしてこの侯爵家から出て行くことになる。そこにお父様は、寂しさのようなものを感じているのかもしれない。
ただ、ソルダスが帰ってくるので、その寂しさは必ず紛れるはずだ。だが、そうなると今度はお母様が寂しくなってしまう。きっとお父様はそこまで考えて、お母様を返してもらいたいと考えているのだろう。
彼は現在、王都にある学校に通っている。遠く離れた地で勉学に励む弟からの近況の報告は、姉としてしっかりと読みたいものだ。
今回の手紙には、アルガール侯爵の葬儀に参加できなかったことに関する悔しさなどが記されている。彼も、侯爵には良くしてもらっていたのでできればこちらに戻ってきたかったのだろう。
「……私は読み終わったが、そちらはどうかな?」
「はい、読み終わりました」
「それでは、交換しよう」
「はい」
私とお父様は、それぞれの持っている手紙を交換した。
もう片方の手紙は、お母様からの手紙だ。お母様も現在は王都にいる。ソルダスが通っている学校の教師を務めているのだ。
お母様は、非常に聡明で優秀な人物であった。王立の学校の教師として白羽の矢が立つ程に貴重な人材なのである。
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「うむ……だが、仕方ないことだ。そう簡単に帰れる距離でもないし、立場もあるからな」
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王都で暮らしている二人は、そう簡単にこちらに帰ってくることができない。特にお母様は色々と難しい立場であるため、今回は帰らないという判断をしたらしい。
ただ、本心では帰りたかったと思っていたのだろう。手紙からでもそれはわかる。
「王立の学校……ふむ、まあ、その教師に選ばれたということは素晴らしいことであるはずなのだがな」
「実際に、お母様の評判はいいのでしょう?」
「ああ、立派に務めを果たしているらしい。とはいえ、彼女個人にとって、それがよかったことなのかはわからないな。結局の所、断りにくい頼みを受け入れただけなのかもしれない」
「それは……」
お母様が教師になりたかったのかどうかは、わからない。
ただ、王立の学校からそういった頼みがきてそれを断ることができるかというと、かなり微妙な所だ。
「そろそろ国から妻を返してもらうべきか……」
「まあ、まずはお母様に聞いてみてもいいのではありませんか?」
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「お父様は、お母様に選ばれたいのですか?」
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アルガール侯爵は亡くなって、私も程なくしてこの侯爵家から出て行くことになる。そこにお父様は、寂しさのようなものを感じているのかもしれない。
ただ、ソルダスが帰ってくるので、その寂しさは必ず紛れるはずだ。だが、そうなると今度はお母様が寂しくなってしまう。きっとお父様はそこまで考えて、お母様を返してもらいたいと考えているのだろう。
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