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9.突然の知らせ
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「さて、バルギード様、あなたの事情はよくわかりました。そんなあなたにお聞きしたいのですが、私のことはどう聞いていますか?」
「あなたは、婚約破棄された女性であると聞いています。ですが、詳しいことは知りません。あなたに非はなかったとは聞いていますが」
「そうですか。まあ、外部の人に伝えられる情報はその程度ですよね」
私は、バルギード様に自分のことを聞いてみることにした。
それは、意趣返しのような側面もある。彼も私の評価を正直に口にするか、確かめてみたくなったのだ。
当然のことながら、彼は正直な評価を口にした。相手にそれを求めるのだから、自分もそうあろうとするのは、筋が通っているといえるだろう。
「事情を話したい所ではあるんですけど、この話をするとアルガール侯爵家を貶めることになってしまいます。バルギード様がお相手の名前を口にしなかったように、私もそれは話すべきではないのかもしれませんね」
「そうですね……個人としては聞いてみたいとは思いますが、あなたがそう思っているのなら、話すべきではないでしょう」
「わかりました。それでは、この話をするのはあなたが信用できる人だと思えた時、いえ、この婚約の話がまとまった時としましょうか」
私の言葉に、バルギード様は笑みを浮かべた。
先程から、彼は笑うことが多い。快活な笑顔だ。
恐らく、今の彼が素の彼なのだろう。それを見せてもらえる程に信用してもらえたのは、素直に嬉しい。
「なるほど、身内になったら話しても問題ないという訳ですか?」
「身内に隠すようなことではないでしょう?」
「確かに、それはその通りですね。では、是非ともあなたの身内にしていただきたいものですね」
「……え?」
バルギード様は、突然そのようなことを言い出した。
その言葉に、私はとても動揺している。それは実質的に、婚約して欲しいと言っているのと同等だったからだ。
「私は、あなたと婚約したいと思っています。あなたなら信用できるとそう思いました」
「先程のやり取りだけで、そう思ったのですか? それは少々、早計であると感じてしまいますが……」
「ふふ、そこでそう言えるあなただからこそ、私は妻に迎えたいと感じているのです。あなたは慎重で聡明な方だ。その力を是非ともラーゼル公爵家のために役立ててもらいたい」
「それは……」
私は考える。この婚約を受け入れていいのかどうかを。
公爵家の長男との婚約は、オンラルト侯爵家にとって大きな利益になるだろう。利害の面では、この婚約は受け入れるべきだ。
しかし、私はもう婚約で失敗したくはない。だからこそ、彼自身を見なければならないと思った。婚約相手として、彼は適切なのだろうか。
それを判断できる材料は、とても少ない。彼はいい人ではあると思うが、まだその深層が見えたという訳ではないだろう。
「……失礼します」
「む?」
「あら?」
私が考えていると、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
私は、バルギード様と顔を見合わせる。来客中ということは、当然わかっているはずだ。それでもこの戸が叩かれたことには、大きな意味があるだろう。
「来客中だぞ? 一体、何の用だ?」
「申し訳ありません。しかしながら、早急にお伝えしなければならない事柄だと思いましたので。特に、セリティア様には……」
「……まさか」
メイドの言葉に、私は思わず立ち上がっていた。
このラーゼル公爵家に伝わってきた私に伝えるべきこと。そこから導き出される結論は、ただ一つである。
「何があったのだ?」
「……アルガール侯爵が、お亡くなりになられました」
「……」
伝えられた事実に、私は茫然とすることしかできなかった。言葉も涙も出ず、私はただ固まるのだった。
「あなたは、婚約破棄された女性であると聞いています。ですが、詳しいことは知りません。あなたに非はなかったとは聞いていますが」
「そうですか。まあ、外部の人に伝えられる情報はその程度ですよね」
私は、バルギード様に自分のことを聞いてみることにした。
それは、意趣返しのような側面もある。彼も私の評価を正直に口にするか、確かめてみたくなったのだ。
当然のことながら、彼は正直な評価を口にした。相手にそれを求めるのだから、自分もそうあろうとするのは、筋が通っているといえるだろう。
「事情を話したい所ではあるんですけど、この話をするとアルガール侯爵家を貶めることになってしまいます。バルギード様がお相手の名前を口にしなかったように、私もそれは話すべきではないのかもしれませんね」
「そうですね……個人としては聞いてみたいとは思いますが、あなたがそう思っているのなら、話すべきではないでしょう」
「わかりました。それでは、この話をするのはあなたが信用できる人だと思えた時、いえ、この婚約の話がまとまった時としましょうか」
私の言葉に、バルギード様は笑みを浮かべた。
先程から、彼は笑うことが多い。快活な笑顔だ。
恐らく、今の彼が素の彼なのだろう。それを見せてもらえる程に信用してもらえたのは、素直に嬉しい。
「なるほど、身内になったら話しても問題ないという訳ですか?」
「身内に隠すようなことではないでしょう?」
「確かに、それはその通りですね。では、是非ともあなたの身内にしていただきたいものですね」
「……え?」
バルギード様は、突然そのようなことを言い出した。
その言葉に、私はとても動揺している。それは実質的に、婚約して欲しいと言っているのと同等だったからだ。
「私は、あなたと婚約したいと思っています。あなたなら信用できるとそう思いました」
「先程のやり取りだけで、そう思ったのですか? それは少々、早計であると感じてしまいますが……」
「ふふ、そこでそう言えるあなただからこそ、私は妻に迎えたいと感じているのです。あなたは慎重で聡明な方だ。その力を是非ともラーゼル公爵家のために役立ててもらいたい」
「それは……」
私は考える。この婚約を受け入れていいのかどうかを。
公爵家の長男との婚約は、オンラルト侯爵家にとって大きな利益になるだろう。利害の面では、この婚約は受け入れるべきだ。
しかし、私はもう婚約で失敗したくはない。だからこそ、彼自身を見なければならないと思った。婚約相手として、彼は適切なのだろうか。
それを判断できる材料は、とても少ない。彼はいい人ではあると思うが、まだその深層が見えたという訳ではないだろう。
「……失礼します」
「む?」
「あら?」
私が考えていると、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
私は、バルギード様と顔を見合わせる。来客中ということは、当然わかっているはずだ。それでもこの戸が叩かれたことには、大きな意味があるだろう。
「来客中だぞ? 一体、何の用だ?」
「申し訳ありません。しかしながら、早急にお伝えしなければならない事柄だと思いましたので。特に、セリティア様には……」
「……まさか」
メイドの言葉に、私は思わず立ち上がっていた。
このラーゼル公爵家に伝わってきた私に伝えるべきこと。そこから導き出される結論は、ただ一つである。
「何があったのだ?」
「……アルガール侯爵が、お亡くなりになられました」
「……」
伝えられた事実に、私は茫然とすることしかできなかった。言葉も涙も出ず、私はただ固まるのだった。
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