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6.待ち構えていた人物

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 ラーゼル公爵家のバルギード様とは、思っていたよりもすぐに会うことになった。
 ラーゼル公爵は、長男であり後継ぎである彼の婚約が中々決まらないことに心を痛めているらしい。それが、お父様から聞いたあちらの家の事情である。
 どうやら、数々の婚約の話を潰しているのはやはりバルギード様本人であるらしい。やはり噂通りの気難しい人物であるということなのだろう。

「まあ、当然のことながらそれなりに緊張している訳だけれど……」

 ゆっくりと停車する馬車の中で、私は深呼吸をした。
 バルギード様の性格に多少難があったとしても、公爵家との婚約はとてもありがたいものである。私を心配しているから口には出さないが、お父様だって期待はしているはずだ。
 だからこそ、今回の話は上手くまとめたいと思っている。もちろん、バルギード様の性格が論外であるならこの考えも変わるとは思うが。

「……どうぞ」
「……ありがとうございます」

 戸が開かれたことにほぼ反射的に声をあげながら、私は馬車から下りることにする。
 だが、そこで私は何かがおかしいことに気付いた。戸を開けた人物の声は、御者の声とは違うような気がする。それなら、一体誰が戸を開けてくれたのだろうか。

「……あれ? あなたは……」
「おや……」

 目を向けてみると、そこには見覚えのある人物がいた。
 数回しか会っておらず、深い印象があった訳ではないが、彼は間違いなくバルギード様である。どうやら、戸を開けてくれたのは彼らしい。

「ふふっ……驚かれているようですね?」
「……ええ、てっきり中で待っているのだと思っていましたから」
「せっかくですから、あなたをエスコートしようかと思いましてね」
「そうですか……それなら、お言葉に甘えさせてもらいます」

 バルギード様は、私に手を差し出してきた。
 その手を取りながら、私はゆっくりと馬車から下りる。

「ようこそお越しくださいました。既にご存知かとは思いますが、念のため自己紹介をしておきましょう。私は、バルギード・ラーゼル。ラーゼル公爵家の長男です」
「それでは、私も自己紹介をしておきましょうか。私は、セリティア・オンラルト。オンラルト侯爵家の長女です」

 馬車から下りると自己紹介されたので、私も同じように返しておく。
 色々と気難しい人物であると聞いていたが、今の所はあまりそう感じない。むしろ、紳士的な人物であるように思える。
 とはいえ、まだ油断するべきではないだろう。何があるかはわからないのだから。
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