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2.病床の侯爵

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 ランドラ様との話を終えた私は、アルガール侯爵家のとある一室を訪ねていた。
 その部屋のベッドの上で、穏やかに窓の外を眺めている初老の男性は、少し悲しそうな顔をしながら私の方を向く。当然のことながら、今回の件は彼の耳にも入っているようだ。

「アルガール侯爵、お久し振りです」
「セリティア嬢、お久し振りです。お元気そうで何よりです」
「侯爵はどうでしたか? お加減などは……」
「ぼちぼちと言った所でしょうか。まあ、残された余生を楽しませてもらっています」

 アルガール侯爵は、もう長くはないらしい。
 病気によって痩せ細った顔を見ると、それが現実であると理解できる。

「オンラルト侯爵……あなたの父君は元気ですか?」
「ええ、元気すぎる程に元気であると思います」
「そうですか……それは何よりです」

 私の父とアルガール侯爵は、親友と呼べるような関係であるらしい。
 二人がそういう関係であったからこそ、私とランドラ様との婚約も決まったようなものだ。
 そんな関係であるからこそ、アルガール侯爵には幼い頃から良くしてもらった。そんな彼との別れが近いという事実がとても悲しい。

「本来であるなら、私が自ら謝罪しなければならないのですが……」
「いえ、そのようなことは父も望まないと思います。無理をしないで欲しいとそう言っていましたから」
「彼は、いつまでも優しい男であるようですね」
「ええ、問題もありますが、自慢の父だと思っています。ああ、これは本人には言わないでくださいね」
「はは、それなら墓まで持っていくことにしましょうか」

 アルガール侯爵は、気丈に笑ってくれた。
 ただ、その内心は穏やかではないだろう。ランドラ様の判断は、彼にとっても予想外のものだったはずだ。

「ですが、あなたとは対面している訳ですから、謝罪させてください。息子がご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」
「謝らないでください。あれは、ランドラ様の勝手なのでしょう?」
「それを私が止められなかったのも事実です」
「仕方ないことです。今の侯爵には、それは無理です」

 アルガール侯爵は、私にゆっくりと頭を下げてきた。
 ランドラ様の行為は身勝手であるが、私はそれを侯爵に謝ってもらいたいとは思わない。

「……どうやら、ランドラ様の決意はとても固いようですし、アルガール侯爵が何を言っても無理でしょう。彼は、それ程までに恋に捕らわれている」
「私の最期の願いだと言っても、あれは聞き入れてくれませんでした。父親として、それは少々悲しい気持ちです」
「そんな……」

 私は思わず唇を噛みしめていた。
 最期の願いすら聞き入れてもらえない。それはなんと悲しいことだろうか。ランドラ様には、父親を慮る気持ちがないのだろうか。

 私は思い出す。先程までランドラ様と話していたことを。色々と言ったが、彼は何も聞き入れてくれなかった。
 それは当然だったのかもしれない。もう長くはない父親の頼みですら聞かないのだから、私の言葉なんて届く訳がなかったのだ。
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