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10.彼の出自

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 ウルティアがエーロン伯爵家を去ってから、しばらくして屋敷にお祖母様が訪ねてきた。
 お祖母様が気まぐれに訪問してくるのは、珍しいことではない。そのため、私はそれをいつもの訪問だと思っていた。
 しかし、それがいつもの訪問ではないことはすぐにわかった。お祖母様が、とある人物を連れて来ていたからである。

「母上……これは一体、どういうことなのですか? そちらのお方は……」
「突然の訪問、申し訳ない、エーロン伯爵。しかしながら、ことは一刻を争うのでな。無礼を承知で、訪ねさせてもらった」

 お祖母様の隣にいるのは、王弟であるアーヴァイン公爵だ。
 この国でもかなり力がある貴族の訪問に、お父様もお母様も怯えている。
 確かに、この状況は訳がわからない。正直私も、混乱している。

「恥ずかしながら、私はかつて一つの間違いを犯した。その間違いによって生まれた子供には、これまで随分と苦労をかけてしまった。しかしながら、この度私はその子供を認知することに決めた。妻からの許しも出ている」
「な、何を言っているのか、私には理解できないのですが……」
「そちらにいるラムクスは、私の息子なのだ」
「な、なんですって……?」

 アーヴァイン公爵の言葉に、両親と私の視線はラムクスに集中した。
 彼は、この驚くべき事実に特に表情を変えていない。つまり、彼自身はその事実を知っていたということだろう。

「あなたの母君には、昔色々と世話になったことがあってな。縁あって、身寄りがなくなったラムクスのことを任せていた」
「この伯爵家の使用人にしたのは、安全を確保するためさ。ここに住み込みで働かせておけば、生活の心配もない」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「それにラムクスには、別のことも頼んでいた。この家の実情を知りたかったからね」
「……え?」

 お祖母様の言葉に、お父様とお母様は顔を見合わせていた。
 お祖母様の視線は鋭い。それは恐らく、二人の普段の態度をラムクスから知らされているからなのだろう。
 そんな視線に対して、両親は焦っている。その表情から、それがよく伝わってきた。

「情けない話だよ、まったく……どうやらお前達は、かなり好き勝手にやっているようだね? ウルティアも含めて、あんた達の行いは腹立たしいものだ。それでも人の親か」
「は、母上、違うのです」
「そうです。お義母様」
「言い訳は無用、私の目が黒い内はこのエーロン伯爵家は私が仕切らせてもらう」

 お祖母様は、そのように言い切った。
 その言葉に、二人は固まってしまっている。厳しいお祖母様の介入、それは二人にとっては絶望的な宣告であるだろう。
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