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1.裏表のない妹
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お淑やかで清純で、多くの者達が理想とする令嬢。私の妹ウルティアは、しばしばそのように言われることがある。
社交界でも、彼女は人気だった。裏表がないその性格で、多くの人達から好かれていたのだ。
裏表のない人、ウルティアはそう表されることもある。彼女は本当に、多くの人間から慕われる存在なのだ。
「はあ、どいつもこいつも鬱陶しい人達ばかり……まったく、嫌になるわ」
しかし姉である私は、あの妹の本質を知っていた。彼女の内面が、その噂とは正反対のものであることを。
目の前で足を大きく開き、忌々しそうな顔をしている妹はお淑やかとは遥かにかけ離れている。それが彼女の本当の姿だ。
「こっちが少しいい顔をしたら、すぐにすり寄ってきて、鬱陶しいったらありゃしない。私には見合わないってわからないものなのかしらね」
妹は、先日の舞踏会の愚痴を口にしていた。
ウルティアは昔から猫を被るのが上手かった。人々が求めている令嬢を演じられるのだ。
それは最早、天賦の才としか言いようがない。彼女の仮面を見破るのは、かなり難しいことであるだろう。
「そんな愚痴を聞かせるために、わざわざ私を呼んだのかしら?」
「……ええ、そうですよ? 悪いですか?」
「重要な話があると言われたから来たというのに……」
「仕方ないじゃありませんか。私が愚痴を言えるのは、お姉様くらいなのですから」
ウルティアの本性は、わがままな令嬢である。
彼女は、社交界での評判がいいことでお父様やお母様から甘やかされており、この家で暴君のように振る舞っているのだ。
一方で私は冷遇されている。ウルティアのようにできない。その事実によって、お父様もお母様も私に冷たいのだ。
「そんなに嫌だというなら、やめてしまえばいいのに……」
「そんなことができないということは、お姉様が一番わかっているはずでしょう?」
「自分の内面をよくわかっているのね?」
「それはもちろんです。こっちの私では、評価は上がらないでしょうからね」
ウルティアは狡猾だった。自身の類稀なる性質を、これでもかという程利用している。
そういう意味で彼女は強かといえるだろう。その部分だけは、見習うべきかもしれない。
「でもお姉様、そんなことは皆やっていることではありませんか。時と場合によって、仮面を被るのは当然です。お姉様だって、舞踏会に行く時は猫を被っていくでしょう?」
「それは……」
「ふふ、それならお姉様も頑張ればいいではありませんか。そうすれば、妹と違って何を考えているかわからない暗い令嬢という印象を払拭できるかもしれませんよ」
ウルティアは口の端を歪めながら私の顔を見てきた。
結局の所、私はこの妹のようになれない。それを悟りながら、私は拳を握り締めるのだった。
社交界でも、彼女は人気だった。裏表がないその性格で、多くの人達から好かれていたのだ。
裏表のない人、ウルティアはそう表されることもある。彼女は本当に、多くの人間から慕われる存在なのだ。
「はあ、どいつもこいつも鬱陶しい人達ばかり……まったく、嫌になるわ」
しかし姉である私は、あの妹の本質を知っていた。彼女の内面が、その噂とは正反対のものであることを。
目の前で足を大きく開き、忌々しそうな顔をしている妹はお淑やかとは遥かにかけ離れている。それが彼女の本当の姿だ。
「こっちが少しいい顔をしたら、すぐにすり寄ってきて、鬱陶しいったらありゃしない。私には見合わないってわからないものなのかしらね」
妹は、先日の舞踏会の愚痴を口にしていた。
ウルティアは昔から猫を被るのが上手かった。人々が求めている令嬢を演じられるのだ。
それは最早、天賦の才としか言いようがない。彼女の仮面を見破るのは、かなり難しいことであるだろう。
「そんな愚痴を聞かせるために、わざわざ私を呼んだのかしら?」
「……ええ、そうですよ? 悪いですか?」
「重要な話があると言われたから来たというのに……」
「仕方ないじゃありませんか。私が愚痴を言えるのは、お姉様くらいなのですから」
ウルティアの本性は、わがままな令嬢である。
彼女は、社交界での評判がいいことでお父様やお母様から甘やかされており、この家で暴君のように振る舞っているのだ。
一方で私は冷遇されている。ウルティアのようにできない。その事実によって、お父様もお母様も私に冷たいのだ。
「そんなに嫌だというなら、やめてしまえばいいのに……」
「そんなことができないということは、お姉様が一番わかっているはずでしょう?」
「自分の内面をよくわかっているのね?」
「それはもちろんです。こっちの私では、評価は上がらないでしょうからね」
ウルティアは狡猾だった。自身の類稀なる性質を、これでもかという程利用している。
そういう意味で彼女は強かといえるだろう。その部分だけは、見習うべきかもしれない。
「でもお姉様、そんなことは皆やっていることではありませんか。時と場合によって、仮面を被るのは当然です。お姉様だって、舞踏会に行く時は猫を被っていくでしょう?」
「それは……」
「ふふ、それならお姉様も頑張ればいいではありませんか。そうすれば、妹と違って何を考えているかわからない暗い令嬢という印象を払拭できるかもしれませんよ」
ウルティアは口の端を歪めながら私の顔を見てきた。
結局の所、私はこの妹のようになれない。それを悟りながら、私は拳を握り締めるのだった。
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