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8.婚約者からの牽制

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 ニーベル伯爵家に訪問してきた私は、ぐったりとしていた。
 先程私は、件のリヴルム様と改めて話した。その話し合いに関しては、特に問題はなかったように思える。

『まあ、よろしく頼む。君とはいい関係を築いていきたいんだ』
『それは私も同じです。どうか、よろしくお願いいたします』
『ああ、言っておくが、僕のやることに口は出さないでくれたまえ。それは君には関係がないことだからな。君と僕はあくまで、家同士の関係を強固にするという関係性なのだから』

 リヴルム様は、私に対してそっと釘を刺してきた。
 彼も自分の考えに賛同する人が、そこまで多くないということは理解しているのだろう。同士であると表明したという訳でもない私のことは、まったく信頼していないようだ。

 これでは、当初の計画が狂ってしまう。
 彼の平民への苛烈な思想が抑えつけられないかもしれない。私は、そのことについて少しだけ心配している。

 それでもリヴルム様は、私に対しては紳士的に振る舞ってくれてはいた。
 彼は一介の女性として私を扱っているし、本当にいい関係を築きたいとは思っているのだろう。その辺りの差というのも、考えてみれば奇妙なものだ。

「……それに落石なんてね」

 リヴルム様の件とは関係がないことだが、少し厄介なことになっていた。
 帰り道が、落石により通れなくなってしまったのだ。
 安全が確保されるまで、私は身動きが取れない。ランブルト伯爵家には、しばらくの間帰れないのである。

「泊めていただけるのはありがたいことだけれどね」

 事態を知ったニーベル伯爵は、私を泊めてくれると言ってきた。
 それ自体は、とてもありがたいことではあるのだが、やはり婚約を交わした家にお世話になるというのは緊張する。粗相がないように、色々と注意しなければならない。

 それに加えて、ウルーグのことが心配だった。
 手紙はなんとか届くとは思うため、事情は知らせることはできるだろう。ただそれでも、長い間ウルーグは一人ということになる。

 お父様が、ウルーグに対して何かしないか心配だ。
 彼にも考えがあるようだが、私は結局それを教えてもらっていないので、安心できる要素が特にない。本当にお父様に対抗できるのかは、まったくわからないのだ。

「とにかく、落ち着かないといけないのでしょうけれどね……」

 以上のことから、私はとても気を張っていた。
 ただ、全てのことに関して、焦っても仕方ないということは理解している。
 そのため私は、案内された客室で、なんとか心を落ち着けようとしていた。

「……え?」

 せっかくなので、風でも浴びた方がいい。そう思って私は、窓際まで行った。
 すると窓の外に、人影があることに気付いた。その人影は、周囲の様子をきょろきょろと伺っているように見える。
 もしかして不審者だろうか。そう思って、私は息を呑むのだった。
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