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7.弟の思惑

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「驚いたわ。まさかあんなことをするなんて」
「……先に手を上げてきたのは、父上の方だ。あれはいわば、正当防衛だ」
「それはそうなのだけれど、いくらなんでもやりすぎではないかしら? 普通に受け止めたり、躱したりもできたはずでしょう?」

 私は、自室にてウルーグと話をしていた。
 彼の先程の行動を問い詰めずにはいられなかったのである。

『お、覚えていろ。この……馬鹿者どもがっ!』

 結局あの後、お父様は捨て台詞を吐いてからその場を去っていった。
 かなり怒っている様子だったので、今後のことがとても心配だ。

 その怒りの原因は、バルカルト侯爵に失望されたこともあるだろう。
 ただ明らかに、ウルーグの振る舞いも関係している。ああやってやり返せば、お父様がいつも以上に怒ることなど、わかっていたはずなのに。

「姉上に手を上げようとしていからな。少しお灸を据える必要があったというだけだ」
「お灸って……」
「……これ以上、父上の好き勝手にはさせないさ」

 ウルーグは、私に対してとても穏やかに言葉を返してきた。
 私と違って、まったく焦っていない。その余裕の態度が、私は少し気になった。流石のウルーグでも、今回はもっと焦ってもいいはずなのだが。

「ウルーグ、あなたは一体何を考えているの? まさか、何も考えずにお父様にやり返したなんて訳ではないのよね?」
「姉上は鋭いな」
「茶化さないで頂戴。わからない訳ないじゃない。あなたがいつもと違うのだもの」
「まあ、確かに姉上の言う通りだ。今の俺には、考えがある」

 ウルーグは、私の質問に素直に答えてくれた。
 彼は何かしらの思惑を持っている。そのことは私にとっては、少しだけ安心できる要素であった。

「それを話してもらえるのかしら?」
「……いや、今はまだその時ではない。姉上はもうすぐ、ニーベル伯爵家に行くだろう。今はそのことだけを考えているといい。そちらも重要なことではあるのだからな」
「それは……」
「姉上が帰って来たら、当然話す。今はリヴルムの相手をどうするかだけ、考えておいてくれ」「……仕方ないわね」

 私は、ウルーグの言葉に半ば仕方なく頷いた。
 ニーベル伯爵家への訪問は、確かに大切なことだったからだ。それをきちんと乗り越えてから、自身の家のことを考える。そうした方がいいというのは、確かなことだ。

 というか、ウルーグは一度決めたら中々考えを曲げない所がある。そのため、説得することは難しそうだ。
 それなら、彼に従う方がいいだろう。どうせ教えてもらえるのだし、私はニーベル伯爵家のことに注力するとしよう。
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