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6.父の怒り
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「イルメア、お前が何か余計なことを言ったのか?」
バルカルト侯爵が帰宅した後、お父様は私に詰め寄ってきた。
私と侯爵が二人きりで話した時に、あることないこと吹き込んだなどとでも考えているのだろうか。お父様は、血相を変えて迫ってきた。
「ベルガーが私を裏切るなどあり得ない。私達には絆があるのだ。お前が何かを吹き込まなければ、このようなことにはならなかった」
「……」
お父様にとって、バルカルト侯爵はとても大きな存在だったのだろう。
正直な所、いい気味である。ここまで動揺するお父様は久し振りに見たので、私の心は少しだけ晴れていた。
「……申し訳ありませんが、今回の件に私は関係ありません。お父様の日頃の行いが、バルカルト侯爵を失望させたのです」
「な、なんだと?」
「苛烈なまでに人を信用しないお父様のことを、バルカルト侯爵も信用できなくなったのでしょう」
私は、お父様に冷たい言葉をかけていた。
実際の所、今回の件には私も関係していないという訳でもない。私とウルーグのことも、バルカルト侯爵は気にかけてくれていたことは間違いないからだ。
ただ私は、お父様が最も屈辱を覚えることを言いたかった。
私に責任転嫁して逃げる道を私はなくしたかったのである。
「この……言わせておけば!」
お父様は、私の言葉に激昂していた。
彼は鬼気迫る表情で、私との距離を詰めて来る。なんというか、今にも手を上げそうな感じだ。
「……父上」
「ウルーグ……」
そんな私とお父様との間に割って入ったのは、ウルーグだった。
彼は、鋭い視線でお父様を見つめている。その視線に対して、お父様も睨み返す。
二人の間には、険悪な空気が流れていた。
それはいつものことではあるのだが、今回はいつにも増してピリピリとしている。張り詰めた空気に、私は額からゆっくりと汗を流した。
「……なんのつもりだ?」
「女性に手を上げるなど、紳士の風上にもおけない行動です。そのような行動は、ランブルト伯爵家の名誉を著しく落とす行為です」
「知ったような口をっ……」
お父様は、ゆっくりと拳を振り上げて、それをウルーグに目がけて振るった。
私は思わず目を瞑る。その直後、鈍い音が響いた。
「おごっ……」
私が目を開けると、床に膝をつくお父様の姿が目に入ってきた。
どうやら逆にウルーグに殴り返されたらしい。綺麗なカウンターが決まったといった所だろうか。
それをやった本人であるウルーグは、涼しい顔をしていた。流石にこれは、まずい行いであると思うのだが、本当に大丈夫なのだろうか。
バルカルト侯爵が帰宅した後、お父様は私に詰め寄ってきた。
私と侯爵が二人きりで話した時に、あることないこと吹き込んだなどとでも考えているのだろうか。お父様は、血相を変えて迫ってきた。
「ベルガーが私を裏切るなどあり得ない。私達には絆があるのだ。お前が何かを吹き込まなければ、このようなことにはならなかった」
「……」
お父様にとって、バルカルト侯爵はとても大きな存在だったのだろう。
正直な所、いい気味である。ここまで動揺するお父様は久し振りに見たので、私の心は少しだけ晴れていた。
「……申し訳ありませんが、今回の件に私は関係ありません。お父様の日頃の行いが、バルカルト侯爵を失望させたのです」
「な、なんだと?」
「苛烈なまでに人を信用しないお父様のことを、バルカルト侯爵も信用できなくなったのでしょう」
私は、お父様に冷たい言葉をかけていた。
実際の所、今回の件には私も関係していないという訳でもない。私とウルーグのことも、バルカルト侯爵は気にかけてくれていたことは間違いないからだ。
ただ私は、お父様が最も屈辱を覚えることを言いたかった。
私に責任転嫁して逃げる道を私はなくしたかったのである。
「この……言わせておけば!」
お父様は、私の言葉に激昂していた。
彼は鬼気迫る表情で、私との距離を詰めて来る。なんというか、今にも手を上げそうな感じだ。
「……父上」
「ウルーグ……」
そんな私とお父様との間に割って入ったのは、ウルーグだった。
彼は、鋭い視線でお父様を見つめている。その視線に対して、お父様も睨み返す。
二人の間には、険悪な空気が流れていた。
それはいつものことではあるのだが、今回はいつにも増してピリピリとしている。張り詰めた空気に、私は額からゆっくりと汗を流した。
「……なんのつもりだ?」
「女性に手を上げるなど、紳士の風上にもおけない行動です。そのような行動は、ランブルト伯爵家の名誉を著しく落とす行為です」
「知ったような口をっ……」
お父様は、ゆっくりと拳を振り上げて、それをウルーグに目がけて振るった。
私は思わず目を瞑る。その直後、鈍い音が響いた。
「おごっ……」
私が目を開けると、床に膝をつくお父様の姿が目に入ってきた。
どうやら逆にウルーグに殴り返されたらしい。綺麗なカウンターが決まったといった所だろうか。
それをやった本人であるウルーグは、涼しい顔をしていた。流石にこれは、まずい行いであると思うのだが、本当に大丈夫なのだろうか。
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