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3.父の友人

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 お父様の知り合いであるバルカルト侯爵が訪ねて来たのは、ある晴れた日のことだった。
 バルカルト侯爵は、若い頃にお父様とともに苦労をともにしたそうだ。いつも冷たい目をしているお父様も、彼の前では温かい目をしている。
 それは私にとっては、奇妙な光景であった。あのお父様にも血が通っている。その光景を見たことで、私やウルーグは初めてそれを実感したくらいだ。

「エルボス、久し振りだな……最近、調子はどうだ? 悪い噂は聞いていないが」
「順調といえるだろうな。娘の婚約も決まったんだ」
「ほう。それはめでたいことだな。しかしそうか……婚約か」

 二人は、親しそうに話をしていた。
 しかしそこで私は、バルカルト侯爵の視線が自分に向いていることに気付いた。

 恰幅の良いバルカルト侯爵は、ひげを撫でて何やら神妙な表情をしている。
 婚約が決まった私について、何か思う所があるのだろうか。盟友の娘ということもあって、彼は私のことを気にかけてくれていたし。

「自分の子供達にも思ったことだが、あの小さかったイルメアがもう婚約とは時の流れを感じずにはいられないな。お前も私も、随分と年を取ったものだ。そろそろ引き際を見極めなければならないか」
「ベルガー、何を弱気なことを言っている。我々の時代は、まだまだこれからだろう」
「エルボス、お前は昔から変わっていないな。向上心というか、野心というか、お前は活力に溢れている。ただ、次の世代に託すということも必要だろう。言わばそれは、順番というものだ」

 バルカルト侯爵は、少し寂しそうな目をしていた。
 しかしながら、彼は満足そうでもある。次の時代に託せることを、嬉しいとも思っているということだろう。

 その姿勢を、お父様にも見習って欲しかった。
 ただ口振りからして、その気はなさそうだ。彼はこれからも、幅を利かせ続けるのだろう。

「まあ、こんな所で話もなんだ。中で話すとしようか」
「……いや、イルメアと少し話をさせてくれないだろうか。せっかくだからな。叱咤激励しておきたい」
「ふむ……構わないが」

 お父様は、私に対して鋭い視線を向けてきた。
 それは暗に、余計なことを言わないように言ってきているのだろう。

 だが別に私も、今更バルカルト侯爵を頼ろうとは思っていない。
 だからこそ、お父様の視線にはイライラしてしまう。

 私はとりあえず一度深呼吸をする。
 バルカルト侯爵は、私を気にかけてくれているのだ。そんな彼に無礼があってはいけない。落ち着いて対応するとしよう。
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