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22.怒った妹

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「リルルナ姉様、お許しください」
「私は寛大ですから、怒ってなんていませんよ。さて、高い高いでもしてあげましょうかね……」
「怒っているじゃないですか!」

 エヴァンスの言葉に対して、リリルナはそれなりに怒りを覚えているらしい。
 怖いなどと言われるのは、流石に想定外だったのだろうか。その表情も心なしか暗いように見える。

 とはいえ、エヴァンスだって何もわかっていないという訳でもないだろう。彼だってリリルナの中にある優しさというものは、少なからず感じ取っているはずだ。二人は別に、険悪な仲という訳でもないし。

「いいな、エヴァンスお兄様」
「オリヴィア……羨ましいの?」
「うん。私もあんな風に飛ばしてもらいたい」

 宙を舞うエヴァンスを見ながら、オリヴィアは目を輝かせていた。
 確かにあれは、人によっては楽しいものかもしれない。ただ、エヴァンス本人は楽しんでいるという訳でもないだろう。その表情には、確かな恐怖がある。

「リルルナ、そろそろ勘弁してあげて」
「……まあ、お姉様がそう言うなら、許してあげますか」
「やっぱり怒っていたんじゃないですか……」

 ゆっくりと床に足をつけたエヴァンスは、安心したようにため息をついた。
 多分彼は、もうリルルナに対して怖いなんて言わないだろう。地獄耳である彼女に、どこで聞かれているかもわからないため、危険だと判断するはずだ。

「えっと、それでリリルナはどうして王城に?」
「え? ああ、そうでしたね。そういえば、お姉様には何も知らせていませんでした」
「……何かあったの?」

 リルルナが王城にいるというのは、よくわからなかった。
 確か私は、屋敷で普通に顔を合わせていたはずである。何か用事があるなら、その時に言ってくれれば良かった。王城にも一緒に来られただろうし、その方が効率も良い気がする。
 となると、何か不測の事態があって駆けつけてきたということだろうか。リルルナなら本気を出せば屋敷から王城まではすぐに来られる訳だし、何か連絡を受けたのかもしれない。

「まあとりあえず、お姉様もついて来てください」
「よくわからないけれど、私も話を聞いた方が良いならもちろんついて行くよ」
「ええ……ああ、二人にはまだ少し早い話ですから、ついて来ないでくださいね」
「あ、はい」
「うん。難しい話はわからないし、いいよ」

 二人に声をかけてから、リルルナは歩き始めた。
 私は、そんな彼女について行く。よくわからないが、重要な話であることは確かだろう。気を引きしておいた方が良いかもしれない。
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