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4.誤魔化せる訳もなく

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「……さて、どなたかそちらにいらっしゃいますね?」
「あっ……」

 二人の男性が逃げ出してから、アドルヴ殿下はゆっくりと言葉を発した。
 それは明らかに、私のことを言っている。視線がこちらに向いているし、間違いない。
 ただ、彼はラルリアがここにいるとは流石に思っていないだろう。もしもそれがわかっていたら、声をかけはしないはずである。アドルヴ殿下は、そういった気遣いをしてくれる人だ。

「ニャ、ニャー……」
「なんだ、猫でしたか……なんて、言うと思っていますか?」

 とりあえず猫の鳴き真似をしてみたが、通じることはなかった。
 その誤魔化し方に、無理があるというのは自分でもわかっていたことだ。ただ恥ずかしい思いをするだけだし、やらなければ良かったと後悔している。

「いや、待てよ。今の声は……」

 そんなことを考えていると、アドルヴ殿下は目を丸めていた。
 それから彼は、周囲をゆっくりと見渡す。他に人がいないことを、確かめているのだろうか。

「猫でしたか……」

 どうやらアドルヴ殿下は、聞いていたのが私であるということに気付いたようだ。
 猫の鳴き真似をしていたはずなので、判断はかなり難しかったはずである。それなのに気付いたということは、すごいことだ。
 とはいえ、ここまで知られてしまったら、最早やり過ごすという選択肢はなくなっている。彼ときちんと話しておく方が今後のためだろう。

「猫ではありません」
「……ラルリア、あなたでしたか」
「ええ、その……全て聞いていました」

 アドルヴ殿下は、私が出て行っても特に驚きはしなかった。やはりわかっていたということだろう。
 しかし、彼の表情は暗い。私が聞いていたという事実に対して、心を痛めてくれているのだろう。アドルヴ殿下は、そういう優しい人だ。

「あまり気にしない方が良いことですよ」
「ええ、わかっています。アドルヴ殿下のお陰で、私も少しは覚悟ができましたから、その点に関してはご安心を」
「あれはあくまで、僕の持論でしかありません。それをラルリア嬢に押し付けるつもりはありませんよ」
「いいえ、立派な考えだったので、見習いたいと思ったというだけです」
「そうですか。それなら結構」

 私の言葉に、アドルヴ殿下は気まずそうにしていた。
 他の人ならまだしも、私に聞かれたということについては、彼も中々に恥ずかしいことであるらしい。
 ただこれは、もう仕方ないことである。私もいたくて居合わせた訳ではないし、不可抗力だと思うことにしよう。
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